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[シングルスタイル・備える]ひとり目線で災害対策

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 災害弱者というと高齢者や障害者などをイメージしがちだけれど、元気でも、若くても、いろんな条件が重なって孤立するリスクはある。災害が起きた時に、みなさんはどう行動されましたか。東京都内でひとり暮らしのある女性の場合――。(深谷浩隆)

避難 声掛け合う人大切

台風19号の日をふりかえる月見里さん(左)と楠本さん(町田市で)=松田賢一撮影
台風19号の日をふりかえる月見里さん(左)と楠本さん=松田賢一撮影

 台風19号が接近していた2019年10月12日午前、東京都町田市の月見里やまなし悠季ゆうきさん(48)は遅く起床した。次男が春に独立してひとり暮らし。台風が来るのは知っていたが、前年に越してきた家は川から遠く、危機感がなかった。

 午前11時頃、スマートフォンを見た。2時間ほど前に「土砂災害警戒区域および川の近くにお住まいの方は速やかに安全な場所に避難してください」と市が呼びかけるメールが来ていた。いったんはスルー。その後も気象関係のメールが届き、市のウェブサイトでハザードマップを見たときは午後2時を過ぎていた。自宅付近が土砂災害警戒区域に指定されていると知った。

 慌てて窓ガラスに飛散防止の段ボール紙を貼り、断水に備えて風呂に水をためた。避難も考えたが、周囲の家に明かりが見えて「大丈夫かな」と思った。住んで日が浅く、声をかけあえる人はいない。地域のどこが危険なのかという情報も乏しかった。

 夕方に風雨が激しくなり、「早めに避難するべきだった?」と不安が高まった。

 SNSで交流があった新宿区の楠本あゆ美さん(52)が「大丈夫ですか」とメッセージをくれた。都の防災セミナーで講師を務める専門家だ。電話で状況を話すと、「土砂災害が起きれば命を落とす危険もある。できれば避難して」と促された。

月見里さんと楠本さんのSNSメッセージ。この後電話をした
月見里さんと楠本さんのSNSメッセージ。この後電話をした

 避難袋に着替えやおにぎりなどを詰め、避難所の小学校に着いたときには、ずぶぬれになっていた。ほかにも避難者がいて、職員が「何かあったら声をかけてくださいね」と言ってくれた。「一人じゃない」とほっとして一夜を過ごした。周辺に、被害は出なかった。

 9月の台風15号で、千葉の大規模停電などの被害を目の当たりにしたばかり。それでも人は「自分は大丈夫」と思い込み、適切な状況判断ができなくなる。「正常性バイアス」と呼ばれる心理で、避難が遅れる一因とされる。

 楠本さんは「ひとり暮らしだと『避難の決心』を後押しする家族がいない」と言った。そうか、ひとりは、決断するのもひとりだ。だったら声をかけあう人が近所にいる方がやはりいいのだけれど、例えば、ひとり暮らしで遠くに働きに出ているとしたら、地域との関わりをつくるのは、簡単ではないかもしれない。

安否確認をどうする?

「無事ならドアの外に貼る」。安否確認用のマグネットシート(足立区の西綾瀬三丁目第2アパートで)
「無事ならドアの外に貼る」。安否確認用のマグネットシート(足立区の西綾瀬三丁目第2アパートで)

 災害時に「助けてもらいやすい」ことも重要だ。救助する側から見れば、ひとり暮らしは安否確認が難しい。

 東京都足立区の都営住宅「西綾瀬三丁目第2アパート」は、約160世帯250人のうち、70歳以上の住民が100人を超える。そして高齢者向け住宅に入る約40世帯のほとんどがひとり暮らしだ。

 自治会は昨年5月、水道業者のマグネット広告をヒントに「無事です」と書いたA4サイズのマグネットシートを作り、全戸に配った。ふだんはスチール製の玄関ドアの内側に貼っておく。災害時、無事な人がドアの外に貼り出せば、自治会は、貼られていない部屋を先に確認できる。

 シートには、災害後もしばらく自宅で過ごす備えとして〈1〉水や食料を備蓄する〈2〉家具を固定する〈3〉簡易トイレを準備するというポイントも記した。自治会長の大森栄一さん(72)は「道が塞がったり大雨が降ったりする中で高齢者が数百メートル離れた避難所に移動するのは難しい。災害発生直後やその後を、いかに自宅で無事に乗り切るかが大切だと考えています」と話した。

 ほかにも、笛(ホイッスル)は日頃持っていたいグッズの一つだ。閉じ込められたとき、体力を温存しつつ助けを呼ぶためだ。SOSの手段を増やし、助けてもらいやすさを高めたい。

女性のための防災BOOK

川崎市男女共同参画センターで作成中の「サバイバル読本」のイメージ
川崎市男女共同参画センターで作成中の「サバイバル読本」のイメージ

 避難生活には、どんな備えが必要だろうか。

 川崎市男女共同参画センターは、東日本大震災で被災した人の声を参考に、冊子「ひとり暮らしの女性のための防災BOOK」を作り、生理用品や自分に合うサイズの下着なども用意するよう勧める。

 作成に携わった「女性の視点でつくるかわさき防災プロジェクト」代表の三村英子さん(51)は「『行政は助けてくれない』という構えでいるべきだ」と強調した。大規模災害では自治体職員も被災し、備蓄品や支援物資はすぐには行き届かない。

 三村さんは神戸市に住んでいた1995年、阪神大震災で被災した。避難生活で一番困ったのはトイレだった。「トイレは食べ物以上に我慢ができないし、使えなくなると人の尊厳にかかわる。ぜひ個人で携帯トイレを用意しておいてほしい」

携帯トイレ(左は凝固剤)
携帯トイレ(左は凝固剤)

 同センターは現在「シニアシングル女性のためのサバイバル読本」を編集中だ。担当者は「備えておくべき生活用品や、避難の判断のポイント、避難生活で気をつける点など、高齢女性でなくても参考になる部分は多いと思う」という。今月中に完成し、ホームページで公開する予定だ。

趣味で高める防災意識

 一般社団法人「地域防災支援協会」代表理事の三平洵みひらじゅんさん(37)は「最初から『防災』と考えると長続きしない」と、キャンプや料理など、ふだんの関心事から防災意識を高めることを勧める。

 キャンプの火おこしや調理は炊き出しに生かせる。ペットをケージに入れて出かけるとき「同行避難」を考える。ポリ袋に具材を入れて湯せんで加熱する料理は、普段でも家事が省力化できるためレシピがたくさん出回っている。

 三平さんは「災害時に役立つ、生活や趣味のスキルもあります。備えのない人なら、まずは自炊と部屋の整頓を防災の第一歩に」と話した。

あとがき「逃げることが人助けに」

 折々に防災は取材してきたのに、自宅を点検したら備蓄が不十分だった。やはり「自分は大丈夫」と思っていた。「自分が逃げることが人助けと思って早めの避難を」という楠本さんの言葉にはっとした。確かに自分が無事なら、自分に必要だったかもしれない救助の手は、ほかに回せる。そして助けが必要になりそうなら、助けやすい工夫を。知恵を絞るポイントはたくさんありそうだ。(深谷)

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1044243 0 シングルスタイル 2020/02/09 05:00:00 2021/03/10 13:32:15 「シングルスタイル」昨年の台風19号で避難した月見里悠季さん(左)と避難を助言した防災セミナー講師の楠本あゆ美さん(2日午後0時44分、東京都町田市で)=松田賢一撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/02/20200208-OYT8I50019-T.jpg?type=thumbnail

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