一人きりの聖夜「クリぼっち」今年は増える?
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薄れる「クリぼっち」の引け目
クリスマス間近。「クリぼっち」は、クリスマスを一緒に過ごす彼氏、彼女がいない状態をさした言葉だが、周囲を見回せば、ひとりでこの季節を楽しむ人はたくさんいる。そしてまた、新型コロナウイルスが広がっている。いつもより人に会いにくい冬に、クリぼっちの未来を考えた。(加藤亮)
楽しむ人 目をそらす人

12月の夜、東京都の会社員岩松美千子さん(52)は、仕事帰りに六本木に行き、イルミネーションの写真を撮った。「暗い気持ちになることが多い一年でしたが、きれいなものを見ると心が躍ります」
この日は記者が合流させてもらったのだが、岩松さんは、周囲の視線をそれほど気にしない。ふだんからひとり行動に慣れているんだな、と感じた。
離婚して子供も巣立ち、今はひとり。きらきら明るいクリスマスの雰囲気が大好きで、ちょっと豪華な食事をしたり、とっておきのスイーツを買ったり、ひとりで過ごす年が多い。昨年は、大ファンの矢沢永吉さんのディナーショーへ。美容院で髪をセットし、ドレスを着て華やいだ時間を過ごした。

今年は25日の仕事納めの後、国立競技場近くに新しくできたホテルに泊まり、近くで食事をして、やっぱりイルミネーションを眺めるそうだ。
「誰かと過ごすことがないわけではないのですが、ひとりが気楽だし、自分の好きなことができます」と話す。
スターツ出版が運営する女性向けサイト「オズモール」の額奈緒子編集長は、クリスマスにひとりで出かけることについて「おひとり様という言葉が定着し、自分らしくいることが認められるようになって、カップルに引け目を感じる必要がなくなったんだと思います」とみる。
砂漠やジャングルで過ごしたが、今年は…
そこまでポジティブになれない人には、徹底して「目をそらす」という戦略もある。
東京農業大学非常勤講師でライターの地主恵亮さん(35)は、ひとり暮らしをするようになってから、誰かとクリスマスを過ごした記憶がない。「自然とクリスマス時期は仕事を詰め込むようになりました」。ここ数年は、あえて海外での仕事を入れていたという。「クリスマスの雰囲気がない場所へ行くんです。オマーンの砂漠とか、アマゾンとか」。そう。半ば話のネタにしているわけだ。


だが、今年は新型コロナウイルスの影響で、海外脱出は難しい。しかも、街では感染を気にして友達同士で騒ぐ人が減り、余計にカップルが目についてしまうのでは……というのが地主さんの予想だ。
「いつも以上に仕事しようと思います。ベランダにイルミネーションを飾るのもいいですよね。誰かが見て幸せな気持ちになってくれたらうれしい」
始まりは あの歌から?
ところで、イエス・キリストの誕生を祝う日が、いつから恋人と過ごす日になったのか。
博報堂買物研究所の山本泰士所長は「1980年代に、流行歌やトレンディードラマの影響で次第に恋人たちのものになっていたのではないでしょうか」と話す。松任谷由実の「恋人がサンタクロース」(80年)や、山下達郎の「クリスマス・イブ」(83年)といったロマンチックな曲が流行。バブル期には、恋人同士で高級ホテルに泊まり、ブランド物のプレゼントを贈る、といった金のかかる過ごし方がメディアで紹介された。みんながそうだったわけでは、もちろんない。
そしてバブルは遠くなった。
過ごし方 「自宅で」が最多

LINEリサーチが2019年、10歳以上の男女に実施したクリスマスに関する調査がある。過ごし方(複数回答)は「いつも通り自宅で過ごす」が54%で最多。「ホームパーティーをする」(25%)、「仕事やアルバイト」(20%)が続いた。
10代だけを見れば「勉強や部活」が、20代では「仕事やアルバイト」がそれぞれ2位だ。ハレの日、という感じではない。
20歳代の独身者でクリスマスに誰かと過ごす予定がない「クリぼっち」は男性が41%、女性が35%だった。
山本所長は「若い世代にとってクリスマスは、恋人を作ったりプレゼントを買ったり、お金や段取りが必要で面倒だと思われている傾向があり、特別感が下がっています。さらに、新型コロナの感染が再び広がり、外出を控える雰囲気が強まっています。友人や恋人に会いにくく、ひとりで過ごす人は増えるかもしれません」と話す。
[あとがき]…安全なスタイルをみんなで
「クリぼっち」という言葉には寂しげな響きがあるけれど、クリスマスはだれかと過ごさなければ、なんていうプレッシャーは、もはや気のせいだと言ってもいいだろう。
一方で、取材で久しぶりにイルミネーションを眺めたら、少し気持ちが高揚した。雰囲気は楽しみたいし、今年は特に、落ち込んだ消費も心配だ。
ひとりを極めれば3密は避けやすい。ひとりで過ごす、安全なクリぼっちスタイルを、みんなで模索するというのはどうだろう。(加藤)
[お便り]「卵子凍結」私も考えたかも
前回、未婚女性が将来の妊娠・出産に備えて卵子の凍結保存をするという選択や、葛藤、リスクについてご紹介しました。ご感想をいただいております。卵子が老化する、ということについては、お子さんがいらっしゃるみなさんの便りにも〈あまり知識がなかった〉というお声が散見されました。
宮城県の独身女性(44)は、〈もし「卵子凍結」が身近によく行われていることだったら、私も行っていたかもしれないと、ちょっと考え込んでしまいました〉と書いておいででした。〈常に仕事優先で、そういうことを考えずに来てしまって……〉とのこと。
私もそんな感じでした。だから「もう遅いのか」と気づいた40代は、とてもしんどかった。人生に0点をつけられたようでした。54歳になったいまは「あのあせりは何だったんだろう」とも思います。いま指せる最善手(将棋はよく知りませんが、ちょっと使ってみたかった)を考え暮らしてゆくのみです。
でも、若い人には、そんなタイムリミットがくることを踏まえて生活していただきたく、じたばたとした来し方を、ここに記してみたしだいです。(編集長 森川暁子)