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[シングルスタイル・聞く]今こそ「孤独のグルメ」流、漫画原作者の久住昌之さんに聞く心構え

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「同じ場所でずっとやっているような店が好き」という久住さん(本人提供)
「同じ場所でずっとやっているような店が好き」という久住さん(本人提供)

 新型コロナウイルスがもたらした「新しい日常」のひとつが「会食の回避」。人との食事や宴会を気兼ねなく楽しむのは、まだまだ先になりそうだ。ならば一人で外食を、という状況に、どんな楽しみを見いだすか。漫画「孤独のグルメ」の原作者で、ドラマ化作品にも関わっている久住昌之さんに聞いてみた。(編集委員 片山一弘)

地味だけど同じ場所で、長くやってる店が好き

久住昌之さん(本人提供)
久住昌之さん(本人提供)

 ――ご自身も一人での外食は多いですか。

 「ずっと一人で仕事してますから、途中で食事する時はいつも一人です。地方の取材も一人で行くので、食事の時は、せっかく来たのだから自分好みの店を見つけたいと思って探します。いい年になっても、地方で初めての店に入る時はドキドキしますね」

 ――一人で外食することの楽しみは何でしょう。

 「僕は高校を卒業して東京の神保町にある美学校に通ったんですが、毎週土曜の午後から夜まで講義があり、途中で1時間の夕食休憩がある。お店も知らないし困ったんだけど、勇気を出して近くの店に入ってみた。そしたら、ほとんどの人が一人で来ている。安くて、おいしくて、こういう世界もあるのかと思いました。それから毎週、一人で食べに行くのが楽しみになりました。それが『孤独のグルメ』の原点と思います」

料理に加え、たたずまいや醸し出す空気全てが味

 ――漫画「孤独のグルメ」は、描写力に定評のある谷口ジローさんが、主人公の井之頭五郎が町を歩いて店を探し、注文して料理を食べる過程をじっくり描きました。

 「谷口さんが最高に素晴らしいのは、人物と背景と食べ物を同列に描けること。『五郎はあまりしゃべらないし、アクションも少ないから、背景は緻密ちみつに描かないと、読む人が五郎の気持ちになれない』とおっしゃっていました」

 ――ドラマも現在シーズン8まで作られ、根強い人気があります。

 「谷口さんのやり方は、ドラマのスタッフにも伝わっています。何十軒もの候補からお店を選び、店内シーンの撮影に6、7時間かけている。料理だけじゃなくて、店自体のたたずまい、店の人や客が醸し出す空気、全部を『味』として描いています。料理自体のおいしさばかりに重点を置いていない。僕は脚本の五郎のセリフには手を入れるんですが、テレビの食レポのようなセリフがあると全部直しています」

何も調べず「ジャケ買い」店構えだけで選んでみる

 ――連載当時は「一人で食べる」というモチーフが新鮮でした。

 「始まった1994年頃は、女性が一人で牛丼屋に入るようなことはほとんどなかったけど、今は普通ですね。中国や韓国でも、一人で外食する習慣がなかったけれども、ここ数年で増えてきたそうです。放送された『孤独のグルメ』がそれを後押ししていると言われ、冗談かと思いましたが(笑)。ある韓国の若者には『僕はまだ一人で外食できないけれど、家で五郎を見ながら練習している』と言われました」

 ――ご自身はどんなお店を選ぶのですか。

 「テレビや雑誌で取り上げられるのは、一口食べて『おおっ、すごい』という店ですが、僕は一見地味だけど、同じ場所で長くやっている店が好きなんです。目立った特徴があるわけでもないし、パッとおいしいとも言えない。でも、だんだん良さがわかってきて、帰り道に『おいしかったかも』って、そのくらいの店がいい」

久住昌之さんの近著「面(ジャケ)食い」(光文社)
久住昌之さんの近著「面(ジャケ)食い」(光文社)

 ――店選びを失敗したと思うことは。

 「もちろんあります。ただ、失敗の経験がなければ、自分好みの店を見つける勘は鍛えられません。最近、『ジャケ食い』(光文社)という本を出しました。若い頃、お金も知識もなく、試聴もできない輸入盤のレコードを買う時に、ジャケットのデザインだけで決めて『ジャケ買い』した。そんなふうに、何も調べず、店構えだけで選んだ店で食べてみたエッセーです」

リラックスして謙虚に過ごすと、いいとこ見えてくる

 「ジャケ買いしたレコードを家に帰って聴いたら、思ってたのと全然違う、ということもあるわけですが、せっかく買ったのだから何回も聴く。そうすると、だんだんいいところが見つかったりするんですよね。お店もそんなふうに、謙虚な気持ちで心をリラックスさせて、食べながら過ごしてみたら、何かいいところが見えてくる」

 ――一人の外食は手持ち無沙汰で困る、という人にアドバイスするとしたら。

 「五郎のまねをしたらいいんじゃないでしょうか。心の中で『どうかなあ』と言いながら店を選び、料理を選ぶ。五郎は知らない町で『ああ、腹が減った』と気づいて、店を探します。一人で食べたいわけではなく、危機的状況だから一人で食べているだけ。そういう時なら、何でもおいしく感じられるものです」

 ――新型コロナの影響は受けていますか。

 「いちばん寂しいのは、好きなお店がなくなってしまうこと。僕が好きな店は、お年寄りの店主が、あちこち痛むけど、お客さんが来るから毎日続けてるようなところだから、緊急事態宣言で時間短縮や休業を余儀なくされて心が折れ、『もういいかな』となってしまう。今年に入ってからも2軒ありました」

店が困ってる、持ち帰りでも時短でも1人でも行く

 ――苦境にある店のために、客としてどんなことを考えていますか。

 「僕は夜11時とか12時まで仕事してから近所の店でちょっと飲んで帰るのが日常だったんですが、それができなくなった。去年の緊急事態宣言の時は、本当に怖かったから仕事場で飲んだりしていたんだけど、だんだんとコロナで何を気をつければよいかわかってきたし、店が潰れる現実も見てきた。だから、好きな店が頑張ってテイクアウト営業してれば買いに行く。夜7時までしかお酒を出せないのなら、たまには仕事を早く終わらせて一人で飲みに行く。それが店に対してできることかな、と。店にとっては、何度も来てくれるお客さんがいちばんありがたいわけですから」

 くすみ・まさゆき 1958年、東京都生まれ。81年に共同ペンネーム・泉昌之で漫画家デビュー(原作を担当、作画は和泉晴紀)。久住名義で「孤独のグルメ」「花のズボラ飯」「荒野のグルメ」などの漫画原作を手がけ、エッセイスト、ミュージシャンとしても活動する。「孤独のグルメ」(画・谷口ジロー)は1994~96年に雑誌連載され、以後も2015年まで断続的に発表。12年にテレビ東京が連続ドラマ化し、長寿シリーズになっている(主演・松重豊、最新作は昨年大みそかに放送)。

■あとがき コロナ流行下にふさわしい

 「孤独のグルメ」の主人公は一人で店に入り、注文以外はほとんど会話せず、酒も飲まず、長居もしない。こう書くと味気なさそうだけれども、心の中では、料理がうまいと喜んだり、次は何を頼もうかと迷ったり、結構忙しい店内がそういう客ばかりなら、感染リスクは低そうだ。コロナ流行下での外食スタイルにふさわしい。一人の食事も心構え次第で楽しめることを、久住さんは教えてくれる。(片山)

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1791444 0 シングルスタイル 2021/01/24 05:00:00 2021/02/03 10:58:10 「同じ場所でずっとやっているような店が好き」という久住さん(本人提供) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210123-OYT8I50014-T.jpg?type=thumbnail

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