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    各界で活躍する著名人に影響を与えた「1冊」に迫ります。

    参議院議員・国際政治学者 猪口邦子さん(63)(4)

    男女共同参画社会の実現に奔走する理由

     なぜ、猪口邦子という気鋭の国際政治学者はこれまでのキャリアをなかば捨て、国会議員に転じたのか。それも専門の外交ではなく、男女共同参画社会の実現に奔走するのか。後者の重要性はじゅうぶん理解するけれど、この問題には多士済々の女性たちがすでに数多く携わり、道半ばながら着実な成果をあげているのではないか。

     この連載記事は、各界で活躍する人の生き方をロール・モデルとして読者に紹介する目的がある。同時に、猪口の門下生の多くが抱いている筆者と同じ疑問を解くためにも、失礼なのは承知の上で聞いてみた。

     「研究は非常にやりがいがあって、そのまま最後まで研究者でありたいとずっと思っていました。今でも半分思っているんですけど……(2002~04年に)軍縮大使をやった時に初めて実務に就いたんですね。実務に就くということは、問題を直接に解決できるということ。その(任期)後、小型武器の被害は猛烈な勢いで発生しましたけど、私が国連小型武器中間会合の議長をやった時、多くの問題を解決できたし、実際に多くの人々を救えたと思っているんですね。だからやっぱり、(国会議員になったのは)どれだけの人の運命を好転させられるかということなんですよ」

     この記事の後半で猪口の手厳しい反論に筆者は遭うのだが、話の冒頭はなるほどと思えるエピソードから始まった。確かに、学者は論文や専門書などを通じて世界に影響を与えられるといっても、自らの手で世の中の課題を解決できるわけではない。

     民間大使としてジュネーブの外交界に身を投じ、世界が実際に動く国際政治のダイナミズムに心ひかれたというのも理解できる。海外でも学者と政治家・官僚を行き来する人は多く、アカデミズムと政治の世界の双方に刺激と知見を与えられることも知っているつもりだ。

     「私は50歳まで好きな学問だけに集中して生きることが許されてきたんですね。夫(孝・新潟県立大学長、東大名誉教授)は学問(国際政治学)の同僚で、職場でも家でも純粋学問……何というのかなあ、そういう港の中、理想郷の中で人生送ってきたわけですよ。だけれども自分の後半の人生、今を生きる人たちの運命を少しでも具体的に好転させる役割があるのならやるべきではないかと。自分で探して歩くのは、なかなか勇気がなかったんですけれど……」

     そんな時、電話をかけて来たのが時の自民党総裁、小泉純一郎首相だった。05年8月8日、解散が決まって1時間後のことである。

     猪口は「郵政選挙」と後に呼ばれる衆院選への出馬を小泉から要請され、自民党公認の比例東京ブロック単独1位で立候補し、初当選した。第3次小泉改造内閣では、内閣府特命相(少子化・男女共同参画担当)に任命され、初入閣を果たした。

     実は、この年の1月、猪口は上智大学の学長選挙に立候補したものの、落選している。一人の学究の徒としてではなく、実社会の課題を解決していきたいという軍縮大使時代に目覚めた思いが、そうした行動に駆り立てたのかもしれない。

     「小泉総理は『あなたが生きて来た研究という職業領域は貴重だ』と言ってくれた。つまり、そこは分かってくれた。『だけど、国会議員という職業も貴重なんだ』と。それは全員のために働き、多くの人の運命を良くすることができるということで、私の考えとすごく一致していました。それで、やってみようという決意が生まれたんです」

     その時、猪口は国際政治という専門領域を生かして国会議員の仕事をする気持ちも少しはあったが、「政治への真の動機は男女共同参画だった」と振り返る。確かに、この問題への関与は必ずしも唐突ではなく、1990年に全会一致で成立した「男女共同参画基本法」の執筆に有識者として参加しているのだが……。

    2015年09月17日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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