文字サイズ
    旅の専門誌「旅行読売」から、旅に役立つ特選情報をお届けします。

    【日本遺産】北前船寄港地・船主集落の見どころ

    荒波を越えた男たちの夢が紡いだ異空間

     江戸中期から明治30年代にかけて、現在の大阪と北海道を日本海経由で結ぶ多数の回船(商船)があった。単に荷物を運ぶ船ではない。寄港地で商品を売買しながら航海する、いわば「動く総合商社」だった。千石船(米を千石〈150トン〉積める大きさの船)で1年に1往復しただけで、船頭の才覚によって千両の利益をあげた。今なら1億円に相当する。

    港から港へ富と文化を運んだ北前船

    • 佐渡国小木民俗博物館に展示されている実物大の復元北前船「白山丸」(提供/佐渡博物館)
      佐渡国小木民俗博物館に展示されている実物大の復元北前船「白山丸」(提供/佐渡博物館)

     瀬戸内地方から見て日本海は北にあることから、この船は「北前船」と呼ばれた。寄港地に多大な富と、民謡などの文化を運んでくる船であり、周辺地域の産業を育てた船でもあった。

     こうした歴史遺産を持つ全国11市町が2017年、文化庁の日本遺産に認定され、さらに今年27市町が追加認定された。それぞれ現地ガイドを養成し、旅行客を迎える体制を整えている。

     北前船誕生に関わる重要な港町は、松前(北海道)、酒田(山形)、敦賀(つるが)(福井)である。北海道・渡島(おしま)半島の先端に近い松前には、戦国末期から近江商人が進出し、敦賀を経由して京畿(けいき)を結ぶ交易ルートができていた。北前船の利益の大半は、北海道から運ぶニシンや昆布が生み出した。

     松前城資料館や、城の北側の寺町を抜けた所に江戸時代の町並みを再現した松前藩屋敷など、松前には、北前船の歴史を知る手がかりが数多い。

     このルートが大坂(明治以後は大阪)までつながったのは1672年(寛文12年)、幕府の命を受けた江戸の商人、河村(ずい)(けん)が、最上(もがみ)川流域の天領(幕府領)の年貢米を、河口の酒田港から大坂を経由して江戸に至る、西回り航路を整備したからだ。これによって日本海沿岸の諸大名も、大坂まで米を直送するようになり、さまざまな物資の輸送ルートになった。

    • 松前城の本丸御門(国重文)と復元された天守閣(松前城資料館)
      松前城の本丸御門(国重文)と復元された天守閣(松前城資料館)

     北前船の時代、年間3000(そう)もが入港した酒田には、北前船の模型が池に浮かぶ日和山(ひよりやま)公園、北前船交易に乗り出して戦前の「日本一の大地主」にまで成長した本間家の旧本邸など、見どころが多い。

     敦賀を交易窓口にしていた近江商人は、その輸送に北陸の船頭を雇っていた。その船頭の中から18世紀後半、自前の船で商品売買を始める人たちが現れた。それが北前船である。

     敦賀には、佐渡から巨木を運んで造った氣比(けひ)神宮の大鳥居やニシン倉があり、昆布加工が伝統産業として継承されている。

    北前船がもたらした風待ち港の繁栄

    • 円覚寺の寺宝館に展示されている「髷額」
      円覚寺の寺宝館に展示されている「髷額」

     白帆一枚に頼って走る和船は、風が吹かないと動かない。天候が急変すれば遭難の危険もある。そんな時に臨時に停泊する小さな湾を「風待ち港」と言った。そこにも北前船の時代には回船問屋ができ、周辺地域まで栄えた。

     典型的な例は、津軽(青森)の深浦だろう。深浦は、陸路では弘前城下に遠かったが、千石船が25艘も係留できる湾があり、難所の津軽海峡を一気に渡るための風を待つ、絶好の港だった。

     深浦の円覚寺(えんがくじ)には全国最古の「船絵馬」や、嵐の海から生還した船乗りが神に感謝し(まげ)を切って奉納した「髷額」など、貴重な資料が保存、公開されている。

     広島県呉市の大崎(おおさき)下島(しもじま)にある御手洗(みたらい)は、無人の御手洗で大船が風待ちをしていることに気付いた近隣の村人が、問屋を開いたのが港の始まりだ。19世紀には広島藩が港を整備し、「西国無双の港」と呼ばれた。御手洗の町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。

    船主集落に残る富豪の町並み

     大正時代の雑誌に「日本一の富豪村」と紹介された場所がある。北前船主の屋敷が立ち並んでいた石川県加賀市の瀬越(せごえ)橋立(はしたて)だ。共に大船が停泊できる港はなく、船は冬の間、大坂に係留していた。北前船で稼いだ富だけが、北陸の地に運ばれて来た。

     残念ながら瀬越には、現存する船主の屋敷がほとんどないが、橋立の屋敷群は国の重要伝統的建造物群保存地区である。豪壮な建物である北前船の里資料館は7代目・酒谷長兵衛の屋敷だが、これでも橋立の北前船主としては中の上クラスというから驚かされる。

    • 御手洗の常盤町通り
      御手洗の常盤町通り

     佐渡市の南西端、宿根(しゅくね)()の佐渡国小木(おぎ)民俗博物館には、原寸大で復元された北前船「白山丸」が展示されている。博物館から海へ下りて行くと、狭い谷間に家が密集した宿根木集落がある。米が30石しかとれない集落で600人もが暮らすことができたのは、北前船商売があったからだ。ここも国の重要伝統的建造物群保存地区である。

     今回紹介した場所は、「北前船寄港地・船主集落」の一部でしかない。北海道から大阪に至る日本遺産の認定地は、どこでも豊かな歴史遺産がある。ぜひ訪ねて、ご自身で見てほしい。

    プロフィル
    加藤貞仁( 歴史紀行作家
     1952年生まれ。大学卒業後に読売新聞社へ入社。経済部、生活情報部などでの記者生活を経て、1997年からフリージャーナリストに。著書は「北前船寄港地ガイド」(無明舎出版)など。6月26日によみうりカルチャー横浜で、6月28日によみうりカルチャー荻窪で、北前船をテーマにした講演会を実施する。

    【DATA】

    松前城資料館
    4月10日~12月10日の9時~16時30分/無休/360円/電話0139・42・2216

    松前藩屋敷
    4月上旬~10月下旬の9時~16時30分/無休/360円/電話0139・43・2439

    本間家旧本邸
    9時30分~16時30分(11月~2月は16時まで)/12月中旬~1月下旬休/700円/電話0234・22・3562

    円覚寺 寺宝館
    8時~17時(12月~3月は16時まで)/無休/400円/電話0173・74・2029

    北前船の里資料館
    9時~16時30分/無休/310円/電話0761・75・1250

    佐渡国小木民俗博物館
    8時30分~17時/冬期は月曜休/500円/電話0259・86・2604

     月刊「旅行読売」は、1966年創刊。「読んで楽しく、行って役立つ旅の情報誌」がモットー。最新号や臨時増刊などの案内は こちら
    2018年06月15日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    大手町モールのおすすめ
    帆布鞄
    PR情報
    大手町モール
    ブランディア
    アーカイブ