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    旅の専門誌「旅行読売」から、旅に役立つ特選情報をお届けします。

    山陰まんなか旅(5)古代の酒造りが伝わる蔵元巡り

    大山開山1300年祭、不昧公200年祭……2018年注目のエリア!

     “山陰まんなか”と呼ばれる宍道(しんじ)湖、中海、大山(だいせん)周辺には歴史あり自然あり美食あり。全6回シリーズで見どころを伝える第5回は、地域の食文化と密接につながる地酒を求めて旅する。幻の酒米、名水、神話、出雲杜氏(とうじ)の技など出会いがいっぱいだ。

    鳥取だけの酒米「強力」の酒

     “日本酒発祥の地”といわれる島根県と隣の鳥取県は酒造りの歴史が古いだけでなく、全国でも指折りの日本酒好き。成人1人当たりの消費量は島根と鳥取が西日本で一、二を占めるのだ。きっとうまい地酒があるに違いない。

    • 千代むすび三酒飲みくらべ700円
      千代むすび三酒飲みくらべ700円

     まずは境港の水木しげるロードにある「千代むすび酒造 岡空本店」で酒蔵を見学(前日までに要予約、無料)。軽快なトークで案内する店長の山本修三さんは、かなりの左党だそうで、「鳥取、島根は水がいい。味のしっかりとしたうまい辛口酒ができるんです」と、説明にも地酒への愛がにじむ。

     1~2種類を無料試飲できると聞いて、鳥取県外不出の酒米「強力(ごうりき)」の純米吟醸を一口。どっと押し寄せる華やかな香りと甘み。ふくらみのある力強い味わいだ。

     (うま)い酒を飲むと、旨い料理が食べたくなる。境線の富士見町駅から徒歩10分の「日本料理 (こころ)」では、食いだおれのまち大阪で食通をうならせてきた料理人の宮吉(さとし)さんが境港から毎日仕入れる旬の魚を調理する。「新鮮な刺し身は塩で食べるのがうまいよ」と教わって試してみると、(たい)やイカの繊細な旨みが引き立って甘みが増す。刺し身や炊き合わせ、天ぷら、茶わん蒸しを含む昼の膳「月」(1620円)に大満足した。

     ところで、料理は包丁で味が変わるというが、隣町の安来(やすぎ)はハガネ(鋼)のまち。日本最古のたたら製鉄技術を受け継ぐヤスキハガネは、岐阜県関や大阪府堺など全国の刀匠に選ばれ続けている。その歴史資料が見られる「和鋼(わこう)博物館」に寄ってみた。ショップには熟したトマトもきれいに切れる守谷宗光の包丁が並び、つい財布の(ひも)が緩む。

    松江の名水が生む極上のキレ

    • 自分で抹茶をたてる、茶の湯堀川遊覧船
      自分で抹茶をたてる、茶の湯堀川遊覧船

     松江に宿泊し、翌日は松江城近くの「()(はく)酒造」へ。蔵見学はできないが試飲コーナーで10種類ほどを試飲しながら選べる。代表銘柄の李白は、口に含んだ瞬間にはっとするほど爽やかでキレが良い。理由は仕込み水を飲んで納得、キリッと澄んだ味なのだ。それでいて熟成香やコク、旨みもあり、まさに食前酒にうってつけだ。

     城下町の風情が残る周辺には島根県名水百選の井戸水を使うしょうゆ店、豆腐店も。坂の上の千手院へ歩くと、松江城一望の見事な景観が待っていた。「松江藩主の祈願寺でしたから、松江藩松平家7代藩主不昧公(ふまいこう)も城を眺められたことでしょう」とご住職。本堂には不昧公の筆による山号額がある。

     不昧公といえば、松江に茶の湯の文化を根付かせた大名茶人。没後200年の今年は各所で記念イベントが行われており、松江城の堀川めぐりでも「茶の湯堀川遊覧船」が運航中だ。特別仕様の船に乗り、抹茶と和菓子で一息つこう。

    神の名を冠する「佐香錦」の酒

    • 醸造の神様、佐香神社
      醸造の神様、佐香神社

     次は、一畑電車で出雲の酒蔵へ。その前に一畑口駅で途中下車して醸造の神様「()()神社」へ参拝したい。酒蔵を巡る旅なので、全国の酒造関係者が参拝するこの古社を素通りはできない。おいしい酒に出会える幸せを感謝した。

     その御利益か、木綿街道沿いの、「ヤマサン」の銘柄で知られる雲州平田の「(さけ)持田(もちだ)本店」で出雲杜氏の岩成(いわなり)(とし)さんに会うことができた。今冬の出来を伺うと、「山廃仕込みの酒がきめ細かくきれいにできたですわ。瓶に詰めて熟成させておりますので秋の仕上がりが楽しみです」と、一言一言に手応えと感動をにじませる。その時を待ち遠しく思いながら、購入したのは島根県固有の酒米「佐香錦(さかにしき)」を使った純米吟醸。芳醇(ほうじゅん)でふくらみがあり、キレとともに心地よい余韻が響いて幸福感に包まれる。「暑い日はロックで飲むとさっぱりしておいしい」と持田祐輔社長。

     同じく木綿街道沿いにある「トラットリア814」では、シェフが愛飲するのは日本酒の水割りだ。イタリアンにも地酒はよく合うのだ。

     夜は出雲大社前の「竹野屋」に泊まり、翌日は7時30分から早朝参拝に参加。朝の境内は静かで一段と清々(すがすが)しい。案内人は出雲大社かたりべガイドの小池清尹(きよただ)さんで、幼少期は境内が遊び場だったそう。歴史や建物のうんちくはもちろん、「黒松並木の参道の真ん中は神様の通り道だから歩いちゃいけないよ」など、出雲っ子が親から伝え聞く作法も教われる。

     早朝参拝が終わる頃、門前の神門通りはほとんどの店が営業前。朝食は宿に戻って取るか、早朝参拝を食事付きで申し込もう。

    • 石畳と松並木が美しい神門通りの解説を受ける
      石畳と松並木が美しい神門通りの解説を受ける
    • トラットリア814のランチメニューの一例
      トラットリア814のランチメニューの一例

     食後は、周辺をぶらぶら。(かみ)(むかえ)の道沿いにある「手錢(てぜん)記念館」で不昧公好みの茶器を眺めるも良し、名物の出雲そばやぜんざい、作りたてのかまぼこを食べるも良し。立ち飲みできる酒店もある。神門通りへ出ると正面に出雲大社の大鳥居が。旅の収穫を感謝して心の中で一礼した。

     文・はるのいづみ/写真・酒井羊一

    【DATA】

    千代むすび酒造 岡空本店
    1865年創業。山田錦、強力、五百万石など鳥取県産を中心とした酒米と中国山地の麓の地下水で酒を醸す。近ごろは岩ガキに合うライスシャンパンも人気。店9~17時/無休、立ち飲みスペース10~21時/水曜休/電話0859・42・3191

    日本料理 心
    境港から毎日仕入れる鮮魚の刺し身や天ぷら、和牛品評会で日本一になった鳥取和牛のローストビーフも人気。夜は会席料理や一品料理で飲む人が多い。11時30分~14時、17時30分~22時/火曜、第1月曜休/電話0859・38・5656

    和鋼博物館
    砂鉄を原料にたたら製鉄法で生産される和の鋼の博物館。日本遺産認定のたたら製鉄用具250点、たたら絵巻「玉鋼縁起」を常設展示している。9~17時(店10~15時)/水曜休(祝日の場合は翌日休)/300円/電話0854・23・2500

    李白酒造
    1882年、松江に創業。奥出雲の五百万石や神の舞、兵庫県の山田錦など酒造好適米のみを使い、名水と呼ばれる井戸水で仕込む。花酵母の使用など新時代の酒造りにも取り組む。8時30分~18時(土・日曜、祝日10~17時)/正月三が日休/電話0852・26・5555、電話090・9733・8539(試飲専用)

    茶の湯堀川遊覧船
    松江の和菓子と自分でたてた抹茶を味わいながら約50分の堀川めぐりが楽しめる。茶道未経験でも船頭さんに教わりつつ楽しく気軽に。11時~15時30分に6回運航/無休(天候により運休あり)/1730円(抹茶・菓子付き、要予約)/電話0852・27・0417

    佐香神社
    出雲国風土記に「百八十の神々が集まって炊事場を建てて酒を醸造させた」とある佐香郷(現・出雲市小境町)に鎮座する。主祭神は醸造をつかさどる久斯神(くすのかみ)。古くから伝わる10月13日の特殊神事「濁酒(どぶろく)祭」が有名。日の出から日の入りまで/電話0853・67・0007

    酒持田本店
    1877年の創業以来、出雲杜氏の技を守り継ぐ木綿街道沿いの蔵元。島根の酒米と手作りの(こうじ)を使い、手間を惜しまず醸す酒は、古酒や梅酒も含めて20種類以上。酒蔵見学は試飲付き1000円(2日前までに要予約)。8時30分~18時30分/不定休/電話0853・62・2023

    トラットリア814
    木綿街道沿いにある小さなイタリア料理店。平田船川を眺めながらランチを味わえる。パスタかリゾットを選べ、サラダ、自家製パン、デザート付き1500円(予約が無難)。夜は要予約のコースのみ3000円~。11時30分~15時、17~22時/火曜休/電話0853・27・9424

    竹野屋
    1877年創業の老舗宿で、シンガー・ソングライター竹内まりやさんの実家でもある。皇室関係者も利用された素鵞(そが)の間からモダンな和室まで21室。夕食は島根3大食のズワイガニ、ノドグロ、島根和牛が味わえる。1泊2食1万8252円~/電話0853・53・3131

    静寂の出雲大社 早朝参拝
    観光ガイドの案内で早朝の出雲大社を参拝する。7時30分に勢溜(せいだまり)を出発し、本殿参拝、神楽殿まで約1時間(食事付きの場合1時間40分)。9月までの土・日曜のみ(8月11日・12日を除く)※実施日の5日前までに申し込む/600円(軽食付き1000円、朝食付き1600円)/電話0853・53・2112(出雲観光協会)

    手錢記念館
    酒造業のかたわら「大年寄」「御用宿」を務めてきた手錢家に伝わる美術工芸品や膨大な歴史資料を所蔵。7月30日まで出雲文化の粋が感じられる企画展「不昧公が育んだ形と心」を開催。9時~16時30分/火曜休(祝日の場合は翌日休)、年末年始、展示替え期間休/600円 /電話0853・53・2000

     (月刊「旅行読売」2018年7月号より)

     月刊「旅行読売」は、1966年創刊。「読んで楽しく、行って役立つ旅の情報誌」がモットー。最新号や臨時増刊などの案内は こちら
    2018年06月22日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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