山陰まんなか旅(6)武将が覇を競った城と信仰の山

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大山開山1300年祭、不昧公200年祭……2018年注目のエリア!

国宝の松江城
国宝の松江城

 宍道(しんじ)湖や中海、大山(だいせん)周辺は山陰地方(鳥取県、島根県)の中心。6回にわたって“山陰まんなか”を紹介してきた最終回は、戦国時代から江戸時代にかけて築城された松江城、米子城、月山(がっさん)富田(とだ)城の三つの城とそれらを見守る霊山を巡る。城の立地や存在理由には意外な真実が……。

 出雲縁結び空港から松江に着き北に向かうと、亀田山に築かれた黒壁と、しっくい塗りの対比が鮮やかな松江城の天守が見えてきた。城へ入る前に、松江歴史館で町の成り立ちを知る。堀尾氏が1611年頃に築城した当時の町のジオラマを見ると、今とほとんど変わらない。平地に築かれた平山城なので、堀をめぐらせて守りを固めている。堀尾吉晴は天守が完成した年に亡くなったが、「松江開府の祖」として堀端に銅像が立っている。

 築城に当たって開削した塩見縄手を歩いてから本丸へ上がると、牛蒡(ごぼう)積みの石垣に立つ四重五階の天守が堂々たる姿を現した。中に入り、取り外し可能な急な階段を上る。最上階の天狗の間に通り抜ける風は心地よく、南にはきらめく宍道湖の湖面が見渡せた。

 夏場の日の入りは19時過ぎ。湖畔で夕日を観賞し、潮の気配を風に感じながら大橋川の河畔を散策。周辺には様々な飲食店がある。郷土料理店「やまいち」は、その日の食材が短冊に書かれて、カウンターの奥にズラリと並んでいる。地酒「豊の秋」に合わせておすすめを味わい、シジミのみそ汁で締めた。

山城で傷んだ体を温泉で癒やす

崖のような急斜面にあった月山富田城
崖のような急斜面にあった月山富田城

 翌日は山間部を南下し、安来(やすぎ)市の広瀬へ。富田(とだ)川を挟んだ山の頂に石垣が浮かんで見える。戦国時代屈指の山城として知られる月山富田城である。1486年に戦国大名の尼子(あまご)氏の居城となったと思われ、その後、西から攻めてきた毛利氏との戦いの場となった。堀尾吉晴・忠氏父子が松江に移る前の城主だった。

 本丸から最も遠いお子守口から上ると1時間かかるという。ガイドの荒木清純さんと城攻めをする覚悟で歩き始めた。千畳平という広い(くる)()へ上がると、広瀬の町並みを一望できた。石垣の上に(やぐら)が築かれていたことが発掘調査で分かったという。「江戸幕府の一国一城令で廃城になりましたが、堀尾氏は目立つところだけを壊したようです」と荒木さん。

さぎの湯荘の大浴場
さぎの湯荘の大浴場

 さらに10分歩くと、正面に七曲がりが見えた。道は整備されていて歩きやすいが、急坂に息が切れる。三ノ丸まで上ると全貌が見渡せた。幅20メートルの尾根が200メートル続き、二ノ丸、本丸を形成している。城を攻め取った気分になっていたら、荒木さんに「二ノ丸と本丸の間は堀切(ほりきり)で分断されています」と指摘された。ここで命を落とした兵もいたのだろう。

 刀折れ矢尽きて下山し、尼子氏の御殿湯だった(さぎ)の湯温泉に宿を取る。隣に足立美術館があるので、横山大観の屏風(びょうぶ)絵や安来出身の陶芸家、河井寛次郎の作品を鑑賞して心静かに過ごしたい。枯山水庭は山城の荒々しさとは対照的な穏やかさだ。

 田園風景のただ中にある鷺の湯温泉の3軒の宿はすべて源泉かけ流し。疲れた体を湯にゆだねると聞こえてくるのは虫の音のみで、夢とうつつの間をさまよった。

隠れた名城と新緑の霊山

加茂川・中海遊覧船
加茂川・中海遊覧船

 3日目はまず米子へ。遊覧船で加茂川から中海へ出て、沖から米子城跡を眺めた。毛利氏の将として月山富田城に入った吉川(きっかわ)広家が築城し、広家が岩国に転封になった後、1602年頃に完成したといわれる。「中海から水を引き込んで内堀とし、山頂には五重の天守を構える平山城で、山陰随一と(うた)われました」と城下町米子観光ガイドの岸本裕さんは解説する。

 1873年の廃城令以降、建物類は取り壊されてしまったため、町中からは石垣のある山としか見えない。しかし枡形(ますがた)虎口(こぐち)と呼ばれる二の丸への入り口は石垣の高さ、幅の広さから城の規模がかなりのものであったことを思わせる。二の丸は現在、テニスコート4面、三の丸の一部が野球場になっていることでもうかがえよう。

 「秀吉の朝鮮出兵の際に築いた登り石垣と同じ形式の石垣が中腹に残っています。守りが堅いことを外に見せるための石垣です」と岸本さん。本丸までは15分。本丸の天守台からは標高90メートルとは思えない大展望が広がり、名城であると納得する。東に大山、西に目を転じれば中海の向こうに島根半島の山並みも望める。この景色を見るだけでも上る価値があるだろう。

大山宝牛ステーキ丼
大山宝牛ステーキ丼

 最後に、今年、開山1300年を迎えた大山に向かった。県道24号を駆け上がると、緑滴る参道にはさわやかな風が吹いていた。大山寺圓流院(えんりゅういん)住職の大館宏雄さんは「夏は下界との温度差が最も大きくなります。山全体がパワースポットですので、1300年守られてきた自然を体感してください」。

 大山寺から大神山(おおがみやま)神社奥宮(おくのみや)へ続く参道は、時が止まったかのような石畳の道。両翼50メートルもある奥宮の横には大山の登山口があり、登山者は参拝してから山を目指していく。戦国時代の武将たちも尊崇した名峰から望む景色はいかばかりだろうか。

文・中野秀俊/写真・酒井羊一

【DATA】

松江城
堀尾氏、京極氏、松平氏が居城とした松江藩の城で2015年、国宝に指定された。9月~10月は特別企画として夜間登閣が行われる(18~21時)。天守8時30分~18時30分(10~3月は17時まで)/無休/560円(8月以降は670円)/電話0852・21・4030

松江歴史館
基本展示では松江の歴史や文化を映像や資料で紹介し、8月1~31日には松江城が国宝指定される決め手の一つとなった祈とう札を展示する。大名茶人として知られる不昧(ふまい)公好みの茶道具や自作の書画を展示する特別展「松平不昧 茶のこころ」を7月13日~8月26日に開催。8時30分~18時30分(10~3月は17時まで)/第3木曜休(祝日の場合は翌日休)/510円(特別展は別途)/電話0852・32・1607

ホーランエンヤ伝承館
日本三大船神事の一つとされ、10年に1回開催されるホーランエンヤを紹介する施設。レプリカの船もある。次回の祭りは2019年5月18~26日。8時30分~18時30分(10~3月は17時まで)/第3木曜休(祝日の場合は翌日休)/200円(松江歴史館観覧者は無料)/電話0852・32・1607

やまいち
大橋川の河畔にある1964年開店の郷土料理店。シジミやウナギなどの宍道湖七珍をはじめ、島根半島沖で取れた魚介類、おでん、おばんざいを味わえる。16時30分~21時30分(日曜、祝日は21時まで)/不定休/電話0852・23・0223

月山富田城
戦国時代に最大8か国を支配した尼子氏が拠点とした城で、城内には忠臣として尼子氏を支えた山中鹿介の像が立つ。城を2時間で巡る定時ガイドは無料(3~11月の第1土曜13時30分から)。一般のガイドは3000円。申し込みは電話0854・22・2210(安来市観光ボランティアガイドの会)。電話0854・32・3357(安来市観光協会広瀬支部)

吉田酒造
安来市広瀬にある酒蔵。超軟水の仕込み水と主に島根県産米を使い、香りが高くキレのある日本酒を造っている。代表銘柄は「月山」。特別純米「出雲」1240円、純米吟醸「涼夏」1830円、焼酎柚酒「月柚 K.」1450円、低アルコールの純米吟醸「美月」1620円。蔵見学は基本的に不可/電話0854・32・2258

足立美術館
120点の横山大観をはじめ、近現代の日本画、陶芸など1500点を所蔵し、3か月ごとに展示替えする。8月30日までの夏季特別展は「榊原紫峰と国展の仲間たち」。5万坪の日本庭園はアメリカの庭園専門誌で15年連続日本一に選ばれている。9時~17時30分(10~3月は17時まで)/無休/2300円/電話0854・28・7111

さぎの湯荘
鷺の湯温泉の宿で、日本庭園を中心に回廊状に配された本館18室のほか、露天風呂付きで離れ2室のみの別邸がある。ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉が大浴場、貸し切り露天ともかけ流し。1泊2食1万4190円から/電話0854・28・6211

加茂川・中海遊覧船
白壁土蔵の古い町並みを眺めながら旧加茂川を下り、中海を巡って50分で戻る。サンセットクルーズなど他の時間の運航は要相談。10時と14時の1日2便/12~3月休/1200円/電話090・6837・2731

城下町米子観光ガイド
米子城跡のほか、城下町、寺町銀座などのコースがあり、体験を含むコースもある(要予約)。1000円から/電話0859・21・3007

大山寺
尼子氏や毛利氏の崇敬を集め、江戸時代は幕府から3000石を安堵(あんど)された。1951年に再建された本堂のほか、国重文の阿弥陀堂、観音菩薩立像や鉄製厨子(ずし)などを所蔵する宝物館がある。宝物館9~16時/12~3月休/300円/電話0859・52・2158

大山宝牛ステーキ丼
大山山麓一帯で育ったうま味成分のオレイン酸を多く含んだ大山宝牛(たからうし)のステーキを使った贅沢(ぜいたく)な丼。A4ランクのモモ肉を使い、温泉卵を載せている。大山ビューハイツなど大山寺周辺の11店舗で楽しめる(店舗によっては要予約)。大山ビューハイツ11~16時/木・金曜休/1300円/電話0859・52・2518

大神山神社奥宮
大神山は大山の古い呼び名。背後に大山がそびえる権現造りの社殿は国重文。内部は白檀(びゃくだん)塗りで天井画も描かれた豪奢(ごうしゃ)なもの。本社は米子市内にある。電話0859・52・2507

大山参道市場
大山寺の参道に5月にオープンしたアウトドアメーカーのモンベルが運営する商業施設。特産品の販売のほか、焼きたてパンやランチを楽しめるベーカリーカフェを併設している。10~18時(5~11月の土・日曜は7~18時)/不定休/電話0859・52・6020

 (月刊「旅行読売」2018年8月号より)

 月刊「旅行読売」は、1966年創刊。「読んで楽しく、行って役立つ旅の情報誌」がモットー。最新号や臨時増刊などの案内は こちら
31529 0 たびよみ 2018/07/12 05:20:00 2018/07/12 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180709-OYT8I50002-T.jpg?type=thumbnail

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