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    昭和レトロ体感 都電荒川線の沿線を巡る

    • 「甘味処 いっぷく亭」は、庚申塚停留場の三ノ輪橋行きホームから徒歩3歩
      「甘味処 いっぷく亭」は、庚申塚停留場の三ノ輪橋行きホームから徒歩3歩

     「昔はね、この通りにもチンチン電車が走っていたのよ」

     2年ほど前まで住んでいたマンションの大家から、そう聞いたことがある。今はマンションが立ち並び、車がビュンビュンと行き交う大通りだが、昭和40年代までは東京のいたる所で都電がガタゴト走っていたのだ。当時はどんな街並みが広がり、人々はどんな生活をしていたのか。都電に揺られて昭和の東京を体感したくなった。

     荒川区の三ノ輪橋から新宿区の早稲田まで約12キロを結ぶ荒川線は、都電唯一の現役路線。JRの大塚駅や王子駅で乗り換え、都電にアクセスするのも便利だが、今回は巣鴨駅から巣鴨地蔵通り商店街をブラブラ歩いて都電の停留場を目指すことにする。

     さっそく塩大福や煎餅に誘惑されるが、まずは高岩寺(こうがんじ)(とげぬき地蔵)にお参り。境内にある洗い観音で「頭が良くなりますように」と念入りに観音様の頭を洗い、商店街に戻る。

     縁日は特に高齢者でにぎわうようだが、週末は若者の姿もあり、店先に並ぶのも金太郎(あめ)や赤パンツ、メロンパンとさまざま。約200軒もの店が連なるが、左右の店をのぞきつつ歩いていると、通りの先を走り抜ける都電が見え、庚申塚(こうしんづか)停留場まではあっという間だ。

     ホームの端に「甘味処 いっぷく亭」の入り口をみつけ、中をのぞくと、おはぎを握っていた女将(おかみ)がにこやかに迎えてくれた。店内には都電の写真や資料が飾られている。聞けば、常連客が撮ったものだという。都電ファンがよく来店するらしい。

     都電の魅力を尋ねると「どこか懐かしく感じるのかしらね。私たちにとっては生活の足だけど」と女将。都電は6~7分おきにやって来ては去っていくが、1両でスピードも遅いせいか、のんびりとした印象だ。

     昭和40年代に都電の廃止の話が持ち上がると、ここもいずれ大通りになるのではとうわさされたそうだが「そうならなくて、良かったわ」と女将は笑う。息子である店主も「都電には子どもの頃から乗ってますけど、風景はずいぶん変わりました。それでも、この辺りは変わらない方かな」と言う。常連やリピーターが多いから、おはぎは季節限定品も用意。「今年初めてカボチャのおはぎを出したら、好評で」とうれしそうだ。握りたてのおはぎに元気をもらい、いよいよ都電に乗る。

    都電の思い出を「もなか」に

    • 「都電もなか」1両144円。車両をデザインしたパッケージは7種
      「都電もなか」1両144円。車両をデザインしたパッケージは7種

     乗り降り自由の一日乗車券(400円)を購入。庚申塚を出てしばらくは民家のそばを走る。人々の生活を近くに感じながら、これが昭和の風景なのかもしれない、と思う。飛鳥山を過ぎると大通りに出て、車と一緒に公道を走行。王子駅前から再び専用軌道に戻る。梶原停留場で下車して、梶原商店街の入り口にある「菓匠 明美」を訪ねた。昭和52年に発売された「都電もなか」が人気の和菓子店だ。

     「都電が廃止されるかも、という時に、父が、何かできないか?と思ったようで」と2代目の久保裕子さん。都電の思い出を形にして残したい、と入院中もそればかり考え、周囲を巻き込みながら、味もデザインも長く愛される和菓子を生み出したのだという。最近は海外からの観光客も増えている。

     「昔は民家から食べ物のにおいがして“台所電車”なんて言われていたの。通学の時間帯には“学園号”なんて呼ばれる電車も走っていたしね」(久保さん)

     都電にまつわる楽しい話を聞き、もなかを土産にする。ひとつ食べようか思案しながら、線路沿いを5分も歩けば次の停留場の荒川車庫前だ。途中、ガタンゴトンと、都電が通り過ぎていった。

    “学園号”旧7500形の車両展示も

    • “学園号”の愛称で親しまれた旧7500形などがある「都電おもいで広場」
      “学園号”の愛称で親しまれた旧7500形などがある「都電おもいで広場」
    • 「あらかわ遊園」はリニューアル工事のため、12月1日から休園。どんな姿に生まれ変わるか
      「あらかわ遊園」はリニューアル工事のため、12月1日から休園。どんな姿に生まれ変わるか

     都電荒川線では現在、33の車両が活躍中。荒川車庫に到着すると、ちょうど貸し切り車が出ていった。グループ旅行やライブ、イベントなどに利用されているらしい。

     車庫は立ち入り禁止だが、そばに「都電おもいで広場」があり、2両の旧型車両が展示されている。車両の中で見つけたのが、昭和25年の都電路線図。なじみのある地名を探しながら眺めるうち、上京してから住んだマンションは三つとも、都電の走った通りに面していた、という事実に気付く。都電は最盛期、40系統・路線延長213キロに及んだが、モータリゼーションの波にのまれて昭和42~47年に廃止されていった。最後に残った二つの系統を統合し、昭和49年に誕生したのが荒川線なのだ。

     都電の歴史を伝える保存車両は、近くの「あらかわ遊園」でも見られる。都電の資料館もあるあらかわ遊園だが、改装のために12月から休園する。レトロな観覧車に乗るなら今しかない。

    文/内山沙希子 写真/齋藤雄輝

    菓匠 明美

    10時~19時30分/月曜(祝日の場合は振り替え)休/電話03・3919・2354

    都電おもいで広場

     10~16時/月~金曜(祝日を除く)、年末年始休/無料/電話 03・3816・5700(都営交通お客様センター)

    あらかわ遊園

     9時~16時30分/火曜休/200円/電話03・3893・6003 

    (月刊「旅行読売」2018年12月号より)

     月刊「旅行読売」は、1966年創刊。「読んで楽しく、行って役立つ旅の情報誌」がモットー。最新号や臨時増刊などの案内は こちら
    2018年11月20日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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