【にっぽん銘菓紀行】水戸の梅

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偕楽園の梅にちなんだ 香りすがしい水戸銘菓

 寒気のさなか、百花に先がけて馥郁(ふくいく)たる香りを放って花を開く梅は、春を告げる花である。

 梅の実の生産量は和歌山県が全国1位だが、梅の名所として広く知られているのは紅梅、白梅など100種、3000本が咲き薫る水戸の偕楽園(かいらくえん)だろう。

「水戸の梅」。4個入り510円(写真/三川ゆき江)
「水戸の梅」。4個入り510円(写真/三川ゆき江)

 水戸藩9代藩主・徳川斉昭(なりあき)が19世紀半ばの天保年間に造営。「領民と(とも)に楽しむ」の意を込めて名付けた庭園で、梅花を好んだ斉昭は観賞と食用を兼ねた梅の植栽を命じた。また、シソ巻き梅干しを参考にした菓子をつくらせた記録もあるという。

 この記録に基づいて、1852年に創業の漬物商(亀印製菓の前身)の2代目・林亥之吉(いのきち)が、1892年に白(あん)をシソの葉でくるんだ菓子を創製して「星の梅」と名付けて評判を得た。その後3代目が「水戸の梅」に改名したのが、この銘菓の始まりという。

 のちに市内五つの菓子店が共同で商標登録。100有余年を経て名実ともに水戸を代表する銘菓になっている。

甘やかで すっきりと匂い立つ香り

2月中旬~3月に約100種の梅が次々と花を開く偕楽園(入園無料)
2月中旬~3月に約100種の梅が次々と花を開く偕楽園(入園無料)

 その元祖的存在の亀印製菓が1999年に開設した見学・体感できる製菓工場、本社、菓子博物館(休館中)を備えたアミューズメント施設「お菓子夢工場」を訪ねた。車なら常磐道水戸ICから10分ほど、水戸駅からはバスで25分ほどにある。

 社長の脇田範一(のりかず)さんの案内で、最初に看板菓子の「水戸の梅」の工程を見学。梅酢で蜜漬けした赤シソの葉の上に、丸い餡入りの求肥(ぎゅうひ)を一つずつ載せると、機械でみるみる包まれる。

 言うまでもなくオートメーション化は衛生的で均質性が保てて、何より早く大量につくれるのが利点で、「水戸の梅」は1日に1万2000個ほどできるという。

 もちろん人の目や手が欠かせないことも多い。難しいのは薄くて軟らかく破れやすいシソの葉の扱いや蜜漬けの作業だ。

 脇田さんによると、新鮮な赤シソを塩水に1日、梅酢に1日漬け込んだあと梅酢をよく絞る。再び塩で7日間漬け、さらに梅酢に漬けて3か月寝かせたあと洗って塩分を抜く。それをしっかり水気を絞って、1日蜜に漬け込むとのこと。かなり手間をかける。

 餡は白生餡に砂糖、水飴、水を加えて練り上げる。求肥は餅粉、水、砂糖を練り上げて蒸すなど、受け継がれてきた熟達の職人の技が欠かせない。

 「機械の便利さに合わせただけのお菓子づくりはしません。人の手による丁寧さをモットーにしています」と脇田さん。

 そうした話の後に改めて「水戸の梅」を賞味した。シソの葉脈の美しさを見つめながら口に運ぶと、甘やかですっきりした香りがふぁっと匂い立つ。

 二口、三口で()みしめると、軟らかくてプツンとした心地よいシソの歯切れ。それがもちっとした求肥と餡の甘さに混じり合って、噛むほどに口の中でおいしさが膨らむ。久しぶりだが、以前の記憶よりずっとおいしく感じた。懐かしさのせいだろうか。

 そういえば菓名にずばり「梅」の文字があるが、赤シソの葉の蜜漬けに梅酢を使うだけで、梅の果肉や皮などは入っていない。形も丸くなく、花の形も模していない。かといって異議はないが、脇田さんは「それを問われるとちょっと窮しますね」と苦笑いした。 

若い女性に評判 雪をまとったイメージの「梅一途」も

 その点、薄い短冊形で透明感のあるべっ甲色、ゼリー風の「のし梅」は、梅肉をつぶして砂糖や寒天を加えて煮固めた、甘酸っぱさが魅力のまさに梅菓子。これと「水戸の梅」と「梅ようかん」を合わせた梅菓子3品が昔からのロングセラーだ。

「梅一途」。4個入り540円(写真/三川ゆき江)
「梅一途」。4個入り540円(写真/三川ゆき江)

 加えて最近、「茨城県産梅100%使用」を(うた)い、梅肉ペースト、梅シロップを練り込んだ白生餡、餅粉の生菓子「梅一途(うめいちず)」を製造販売している。雪をまとった梅をイメージし、薄紅色の梅餡をくるんだ軟らかな羽二重餅で、もちもちの食感とともに甘酸っぱさを秘めた上品な甘さが、特に若い女性の間で評判だ。

 偕楽園では、2019年は2月16日~3月31日に「水戸の梅まつり」が開催される。10人の女性の「水戸の梅大使」とともに、さぞ銘菓「水戸の梅」もまた、まつりに花を添えることだろう。

亀印製菓 本店 水戸市見川町2139-5/電話029・305・2211、FAX 029・244・9955/9~19時/無休(工場は水・日曜休/常磐線水戸駅からバス25分、桜ノ牧高校前下車徒歩3分/常磐道水戸ICから5キロ

http://kamejirushi.co.jp/

文●中尾隆之(なかお たかゆき)

紀行作家。北海道生まれ。高校教師、出版社勤務を経て独立。土産銘菓に詳しく、TVチャンピオン(テレビ東京)の「全国お土産銘菓通選手権」優勝。著書多数、近著に「日本百銘菓」(NHK出版)。

(月刊「旅行読売」2019年2月号より)

◆月刊「旅行読売」
 1966年創刊。「読んで楽しく、行って役立つ旅の情報誌」がモットー。最新号や臨時増刊などの案内はこちら

405720 0 たびよみ 2019/02/01 05:20:00 2019/02/07 15:30:40 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190128-OYT8I50023-T.jpg?type=thumbnail

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