トークイベントを開くダイニングバー「ボクモ」店長 岩須直紀さん 42(名古屋市)
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「東京や大阪に広がりつつある『トーク文化』を名古屋にも根付かせたい」。名古屋市のFMラジオ局の番組ディレクターを経て、飲食店経営者に転身した。自ら企画する「トークライブ」が楽しめる店を同市中区栄に開き、名古屋大の研究者らも市民への研究発表の場として使うなど注目を集めている。
13日のトークライブでは、同性愛や性同一性障害などの性的少数者(LGBT)の人たちが日常生活をざっくばらんに話し、約40人が聴き入った。
トークライブは、専門的な研究から「コンクリート仏像の魅力」など独特な分野まで毎回専門家らを招き、とことん深掘りする。講師との距離が近く、堅苦しくない雰囲気が人気を集め、毎回大勢の人が訪れるという。開店から8年半で開いたイベントは、音楽ライブも含め約500本に上る。
名古屋大2年の時、地元FMラジオ局「ZIP―FM」の番組制作会社でアルバイトを始めた。曲をリスナーに届けられることに面白さを感じ、卒業後も仕事を続け、2000年頃から同局の看板番組「ZIP HOT 100」のディレクターに。番組の名DJ、小林克也さん(76)からは「体制におもねらず、ウィットやユーモアで楽しませるエンターテイナーになりなさい」と制作者の心意気を学んだ。
10年ほど前、「ラジオの外で、聴衆の表情を見ながらトークを盛り上げる場を作りたい」と思い立った。東京出張の際、「とがったテーマでも、楽しく話が聴けるのが魅力」と、トークライブハウスに通っていた。
「名古屋でもやろう」。経営コンサルタントに相談したが、「トークライブになじみのない名古屋では成功しない」と反対された。そこで、有機野菜を中心にした本格的な飲食ができる店に、エッセンスの一つとして、トークライブを加えることにした。
ディレクターの仕事を減らして都内や名古屋市の飲食店で修業し、09年7月、ダイニングバー「ボクモ」を開店。ソムリエの資格も取り、店内には常時100種類のワインをそろえた。内装はニューヨークのパブをイメージし、こだわりの音楽などが流れる店にした。
地域連携で新事業開発を進める名古屋大の「学術研究・産学官連携推進本部」も注目し、13年から同大の研究者らが講座を開催。「飲食店という日常の延長に専門的なテーマを忍び込ませると、自分と関係ないと思っていたことでも興味を持って聴ける」という。
目標はトークライブを名古屋の名物にすることと、「まだ畏れ多くて呼べない」という小林さんを招いたトークライブ開催だ。「信念を持って独特のエンターテインメントを表現し、名古屋の人々に刺激を与え続けていると、小林さんに知ってほしい」と夢みている。(苅谷俊岐)
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名古屋大学文学部卒。同大拠点のインカレサークル「中日本学生放送連盟」にも所属した。店名「ボクモ」は、13年前に自らメジャーデビューを後押しした人気ロックバンド「RADWIMPS」の歌詞から付けた。近くに姉妹店「ロックモ」もある。2児の父。