<3>遅すぎる謝罪「何を今さら・・・」

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幸子さんがワゴン車にはねられた交差点。事故後、車に注意を促すために交差点の中心部が赤色に舗装された(3日、北名古屋市沖村で)=橘薫撮影
幸子さんがワゴン車にはねられた交差点。事故後、車に注意を促すために交差点の中心部が赤色に舗装された(3日、北名古屋市沖村で)=橘薫撮影

 「カッターシャツの袖、きょう直しとくわ」。何げない日常のやり取りが最後の会話となった。

 昨年7月12日朝、中島幸子さん(当時84歳)は朝食をとると、日課の散歩に出かけた。いつものように北名古屋市沖村の市道交差点を渡った際、右折してきたワゴン車にはねられた。

 近所の住民が119番をして幸子さんに心臓マッサージを施し、駆けつけた義理の娘の雅枝さん(53)は「ばあちゃん、ばあちゃん」と呼び続けた。しかし、幸子さんが目を覚ますことはなかった。

 救急車が到着し騒々しくなる中、雅枝さんはワゴン車を運転していた男性(65)がもらした一言に耳を疑った。「ちょっと当たっただけなんだけどね」

 

 男性は幸子さんの通夜・葬儀に姿を見せなかった。雅枝さんが電話で理由を尋ねると「足がないから」と言い訳じみた返事をされた。数日後、謝罪しに自宅を訪ねて来たが、半袖シャツに、チェーンをぶら下げたズボン姿。非常識な態度に母を侮辱されたようで怒りに震えた。

 事故現場は、男性が仕事に向かうのによく通りかかる交差点だった。自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)に問われた男性は今年1月の初公判で「慣れがあった。安全確認をしていなかった」と非を認め、閉廷後には法廷前の廊下で雅枝さんらに土下座をしようとした。それを制止した雅枝さんは男性に「謝るならもっと早いうちにしてほしかった。何を今さら……」と言ってすすり泣いた。

 男性は判決で、遺族に誠意ある対応をしなかったことなどを指摘され、禁錮1年6月、執行猶予3年を言い渡された。

 

 「あなたのように つよい人で やさしい人でありたい――」

 雅枝さんは大好きなドリームズ・カム・トゥルーの「あなたのように」を聴くと、しっかり者で家族思いだった幸子さんの笑顔を思い浮かべる。

 生前の幸子さんは、長男夫婦と孫娘2人に囲まれ、「100歳まで生きる」と意気軒高だった。孫娘らと行く旅行や映画を楽しみにしていた。だから毎日の散歩で体力作りに励んでいた。

 手先が器用で孫娘に手作りのポーチを編んであげたり、近所の人たちから洋服の裾直しを頼まれれば、快く引き受けたり……。誰かの役に立てることが生きがいだった。「最後までみんなのために尽くしてくれたのに」。突然の別れで感謝の気持ちを伝えられず、雅枝さんには切ない悔しさが残る。

 現場の交差点は事故後、ドライバーに横断者への注意を促すため、中心部が赤色に舗装された。雅枝さんは交差点を通る度に思う。「ばあちゃんは『車って怖いよ』と身をもって教えてくれたんだね」

 

■犠牲目立つ「交通弱者」

 県内では、「交通弱者」とされる歩行者や自転車利用者が輪禍の犠牲になる傾向が顕著になっている。

 県警によると、昨年1年間の事故死者数は「歩行者」が83人(前年比1人増)、「自転車利用者」が35人(同6人増)でともに全国最悪だった。合計118人は県内の全事故死者数の59%を占め、全国平均の49・5%を上回る。このうちの82人は65歳以上の高齢者で、横断歩道上で犠牲になった歩行者は26人だった。

 県警交通総務課の担当者は「交通弱者を軽視するドライバーの意識が事故につながっている」と分析する。

無断転載禁止
16678 0 輪禍を防げ~脱ワースト~ 2018/04/14 05:00:00 2018/04/14 05:00:00 高齢女性がワゴン車にはねられた交差点(3日、愛知県北名古屋市で)=橘薫撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180413-OYTAI50014-T.jpg?type=thumbnail

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