<1>暴走 まさか自分が

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遺影に手を置き亡き妻をしのぶ男性。自身の事故で妻を失い、後悔の日々を送る=中村光一撮影
遺影に手を置き亡き妻をしのぶ男性。自身の事故で妻を失い、後悔の日々を送る=中村光一撮影
男性が事故を起こした現場。道路を越えて向かいにあるブロック塀に衝突した(豊川市で)
男性が事故を起こした現場。道路を越えて向かいにあるブロック塀に衝突した(豊川市で)

■急発進、衝突

 1月28日の昼下がり、家族3人で豊川稲荷(豊川市豊川町)のお参りを済ませた男性(93)が、駐車場から愛車を出そうとアクセルを踏んだ、その時だった。

 乗用車は急発進し、道路を横切って正面のブロック塀に激突。衝撃でフロントガラスが割れてエアバッグが飛び出し、身動きができなくなった。

 後部座席には妻(91)が座っていた。「大丈夫か?」と呼び掛けると、妻はかすれた声で「背中が痛い」と訴えた。出血はないようだし助かった、と思ったのもつかの間、妻は搬送先の病院で容体が急変。その日の夜、帰らぬ人となった。医師からは「事故の衝撃で折れた肋骨ろっこつが体内で突き刺さっていた」と聞かされた。

 男性は運転歴が70年以上になるが、事故で人を傷つけたことはなかった。最近は耳が遠くなり足腰が弱くなったが、昨年秋の免許更新前の認知機能検査で「問題なし」と判定された。「まさか自分が事故を起こすなんて……」。なぜ車を暴走させてしまったのか、今もよくわからない。

■まだ大丈夫

 男性の次男(61)は車外で駐車料金の精算をしていて、事故の一部始終を目の当たりにした。「アクセルはベタ踏みだったはず。父はブレーキと踏み間違えたのかもしれない」と推測する。

 父親は学生時代、相撲の県大会で上位入賞し、社会人になってからは草野球に打ち込むなど、体は頑健だった。しかし、年を重ねるにつれ、足元が頼りなくなる父親の姿に、次男は「運転免許を返納させようか」と何度か考えたことがある。

 ただ、助手席から父親の運転を観察しても、危なっかしいところはなく、しっかりと左右を確認しながら慎重にハンドルを握っていた。自分が幼い頃、東京や各地の観光地へドライブにたくさん連れて行ってもらった思い出もある。「車がないのは不便だし、何よりお父さんは運転が好きだ。まだ大丈夫じゃないか」。返納をなかなか言い出せないまま、悲劇が起きてしまった。

■後悔の日々

 「お父さんと結婚してよかったよ」。事故の数か月前、妻が不意に漏らした一言を、男性は何度も思い返している。仕事人間で家を空けることが多かったが、妻は2人の息子を育ててくれ、そのお陰で4人の孫に恵まれた。照れくさかったが、感謝の気持ちを込めて、「100歳まで元気に生きような」と答えた。

 妻は和裁が得意だった。9年前、結婚60周年のダイヤモンド婚を迎えた記念に2人で撮影した写真には、自ら仕立てた白い和服を身にまとってほほ笑む妻が納まっている。男性はその遺影を仏間に飾り、日がな一日、何度も悔いる言葉を重ねる。

 「これからも助け合って生きようと誓ったのに、自分の手で死なせてしまうとは」

 

■高齢ドライバー 10年間で5割増

 高齢者の交通事故死者数が全国ワーストの本県では、65歳以上のドライバーが昨年1年間に起こした死亡事故が39件に上り、こちらも全国最多。人身事故のワースト順位でも常に上位に名を連ねる。本県は名古屋都心部を除くと公共交通機関が少なく、高齢者の生活に車が欠かせない。県警は「高齢ドライバー対策は最重要課題の一つ。超高齢化社会が迫っており、一刻の猶予もない」と危機感を強める。

 県警によると、県内の昨年末時点の運転免許人口は510万4391人と最近10年間は横ばいで推移する一方、65歳以上のドライバーは106万9469人で、2008年末の68万9626人より5割以上増加。運転免許人口に占める高齢ドライバーの割合は14・2%から21%と右肩上がりに急増した。高齢化に加え、高齢女性の免許保有率の上昇により、県警はこの傾向が今後も続くと見込んでいる。

 一方、本県の自動車保有台数は全国1位の526万台(昨年末)で、車の走行台数と走行距離を掛け合わせた交通量を示す指標「走行台キロ」も全国最多。中京圏の住民が利用する交通手段の6割は自動車で、首都圏や関西圏の約2倍に上るとのアンケート調査結果もあり、県警交通総務課の相馬圭吾次長は「車がないと買い物や通院が難しく、高齢になるとますます車に依存するのではないか」と県内の高齢者の事故が多い理由を分析する。

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33350 0 輪禍を防げ 第2部 2018/07/21 12:00:00 2019/02/08 15:46:27 【輪禍を防げ】用・91歳の妻の遺影に手を置く93歳の男性。自身の自損事故で妻を亡くしてしまった(7日、愛知県蒲郡市で)=中村光一撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180721-OYTAI50001-T.jpg?type=thumbnail

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