<4>免許返納 踏み出せない

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■危険でも

 「けがの治療で通院しないといけないから……」

 名古屋市東区の80歳代の女性は県警東署の窓口で、運転免許証を自主返納してはどうか、という警察官からの勧めを断った。

 女性はこの半年間、他の車に追突するなど3件の交通事故を起こしていた。警察官がシミュレーターで女性の模擬運転を確認したところ、女性は車線を外れたり、赤信号なのにブレーキをかけなかったりと危険な運転を繰り返した。機器による測定では、視野が狭く、身体の反応が鈍いこともわかった。

 警察官は女性に「事故を起こすと大変だから免許を返したら」と何度も促したが、女性は「バス停まで1キロも歩かないといけない。車なら玄関を出たらすぐに乗れる」と最後まで首を縦に振らなかった。

 警察官は「返納は強制できない。なるべく運転を控えてもらうなど折り合いをつけるしかない」と話す。

■促す試み

 県警は2016年から、半年間に3回以上の事故歴のある高齢者と自宅や警察署で面談し、自主返納を促している。ホームページなどでは、免許を返納すれば、身分証代わりになる運転経歴証明書が発行され、商店やタクシーなどで割引を受けられるとPRに努める。

 県内で免許を返納した75歳以上のドライバーは昨年、過去最多の1万4680人に上った。しかし、免許保有者数に占める割合(返納率)は4・72%で、東京都(7・53%)、大阪府(7・29%)といった他の大都市圏を大きく下回る。

 県内の地域別では、公共交通網の整った名古屋市でも5~7%程度にとどまる。県警交通総務課は「名古屋は東京や大阪よりも、商業施設などの駐車場が十分に整備されており、車で出かけやすい。道路が広く渋滞が起きにくいことも、高齢者が運転をやめようと思わない要因の一つではないか」と分析する。

■車のない生活

厳しい暑さのなか、買い物袋を提げて片道30分の道のりを歩く女性(12日、一宮市で)=原田拓未撮影 ▼
厳しい暑さのなか、買い物袋を提げて片道30分の道のりを歩く女性(12日、一宮市で)=原田拓未撮影 ▼

 今年3月に自損事故を起こした一宮市の女性(78)はいま、免許を返納しようか迷っている。

 友人とコンサートを聴いた帰り道、市内の喫茶店で駐車しようとした際、バックでフェンスに突っ込んだ。慌ててペダルを踏むと、今度は猛スピードで前進し、街路灯に衝突して止まった。ブレーキとアクセルを踏み間違えたらしかった。

 車は大破し、女性は鼻や頬を骨折して入院。助手席に同乗していた友人も顔面を強く打って、目が思うように開かなくなった。女性は退院後、友人の痛々しい姿を目の当たりにして、「二度とハンドルを握っちゃいけない」と誓った。

 しかし、いざ車のない生活を始めると、あまりの不便さに戸惑った。近所のスーパーまで車なら5分で着くのに歩くと30分かかる。買い物かごにたくさん商品を入れては、レジで「車じゃないから持ちきれない」と気付き、何度も返品した。趣味の絵画の大きな作品をギャラリーまで運ぶのも一苦労。「車がないと、やりたいことを諦めないといけないのかしら」と悲しくなった。

 20歳代半ばで免許を取り、娘の出産時には自ら車を運転して病院に向かった。職場に車で通い、定年退職後は友人を乗せて全国各地を巡った。独り暮らしの今、生きがいだった車を失えば、家に引きこもってしまうのではと不安が募る。

 「運転をやめることが友人への贖罪しょくざい。でも心にぽっかり穴が開いたみたいで……」。胸の内で葛藤が続いている。

無断転載禁止
33835 0 輪禍を防げ 第2部 2018/07/26 05:00:00 2018/07/26 05:00:00 車を手放し、買い物袋を下げて片道30分の道のりを歩く女性(12日、愛知県一宮市で)=原田拓未撮影 ※顔が見えないよう暗くしました https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180721-OYTAI50010-T.jpg?type=thumbnail

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