読者による文学賞「売れる本より面白い本」SNS呼びかけで誕生

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候補作ツイッターで推薦

 読者が運営する文学賞を創りたい。売れる本より面白い本を読みたい――。2019年10月に発信されたツイートが、市井の読書家たちの間に、 燎原りょうげん の火のごとく広がった。これをきっかけに、「読者による文学賞」が誕生。愛知県の読書家も選考委員を務め、現在、第3回の選考が進んでいる。代表者に、創設に至る経緯と、この賞にかける思いを聞いた。

候補作は全て読む

「読者の力でいい本を発掘したい」と語る末祐一郎さん(東京・神田の古書店街で)
「読者の力でいい本を発掘したい」と語る末祐一郎さん(東京・神田の古書店街で)

 売れている本でも、自分の心に刺さらない。世の中の評価と、自分の中の評価がマッチしない。同賞を運営する すえ 祐一郎さん(30)(東京都世田谷区)は「こうした思いを抱えているのは自分だけじゃないだろうな。そこで、読者の意見を反映した文学賞があれば、と考えました」と、創設の動機を語る。

 「自分たちで文学賞をつくろう」と呼びかけた末さんのツイートは、300を超えるリツイート(転載)で拡散され、6万人以上が目にした。大きな反響に背中を押され、実現に向けて動き出した。

 まず「1次選考」として、その年に出版された小説の中から「大賞」を与えたい作品を、読者にツイッターで推薦してもらう。第1回の推薦は121件に上り、重複などを除く71作品を審査。第2回の審査対象は107作品に上った。

 候補作品は、やはりツイッターで募った有志の読者10人が分担し、自分で購入して全て読んだ上で、それぞれ「2次選考通過作品」として1冊を選定。そうして絞った10冊の中から、末さんら数人による最終選考で、「大賞」を決定する。

受賞作品の決定

 第1回の受賞作品は、浅葉なつ著「どうかこの声が、あなたに届きますように」(文春文庫)に決まり、ホームページやツイッターで発表した。

 この作品は、地下アイドルをしていた20歳のヒロインがラジオの番組アシスタントにスカウトされ、成長していく物語。末さんは「前向きさと、感情移入させられる力が強かった。現在のラジオ業界で有意義なコンテンツと新しい生き方を模索していくというドラマが、活字離れが進む中、新しい文学賞で出版業界を盛り上げようとしている自分たちの姿とシンクロしたことも大きかった」と話す。

 文芸春秋は受賞を受け、同書に「読者による文学賞第一回受賞!」と書いた帯を巻いたほか、受賞を報じる記事を自社のサイトに掲載した。同社文春文庫部の担当者は「主催者のお話をうかがって、出版社、作者、書店のどこにもつながりのない一般読者が、自由に選ぶ面白い本という理想を掲げていることや、それを実現すべくまじめに取り組んでいることがわかった。ぜひ頑張って続けて大きな賞にしてほしい」と期待する。

 第2回の受賞作品は、ジャン=クロード・グランベール著、河野万里子訳「神さまの貨物」(ポプラ社)。第2次大戦中、ユダヤ人を強制収容所に移送する貨物列車の窓から雪の上に落とされた赤ちゃんを、貧しい木こりのおかみさんが見つけ、ストーリーが展開していく。末さんは「考えさせられる問いを投げかけ、メッセージ性の深さが受賞の決め手となった」という。

 第3回の推薦作品の募集期間は昨年12月1日から1月14日までで、選考を経て、「世界図書・著作権デー」にちなんで、4月23日に受賞作品を発表する予定だ。

 「賞を通じて、売れていなくても多くの人に読まれるべき良作を発掘し、読者が求めているものを形にしていきたい」。末さんはそう意気込んでいる。

最終選考委員も務めた山本副代表「選考過程わかる」は魅力的

 愛知県岡崎市の会社員山本徹真さん(51)は、末さんのツイートに賛同し、「副代表」に就いた。

 第1回では2次と最終の選考委員を務め、コロナ禍のためウェブ会議システムを使って協議し、受賞作品を決めた。山本さんが2次選考で10冊の中から選んだのは、久坂部羊著「オカシナ記念病院」(角川書店)。離島の病院で、在宅医療やがん検診、認知症外来などに携わる研修医の姿が描かれる。「患者の意思を尊重し、幸せに死を迎えることを重視している。延命だけが正しい医療ではないと考えさせられた」と、強く心に残った理由を話す。

 「通常の文学賞は、選考過程がわからないまま発表される。自分たちが読者目線でいい本を選ぶという企画は魅力的」。熱く語る山本さんは、今年の第3回でも最終選考委員を務める予定だ。

選考委員・坂田さん ノルマ20冊を読破、楽しめる本広がる

 第1回と第2回で2次選考委員を務めた名古屋市南区、パート坂田じゅりさん(ツイッターネーム)。末さんのツイートを見て面白そうと名乗りを上げた。

 読書にふけるきっかけは「現実逃避のため」で、ファンタジーが好きだった。それが、選考委員として計20冊読破のノルマを果たし、「楽しめる本の幅が広がった。他人の人生を経験できて、勉強になります」。

 選考に関わった本の中で印象深いのは、山本文緒著「自転しながら公転する」(新潮社)。32歳の主人公の女性を自分に重ね、「交際相手や結婚などについて色々と考えさせられた」という。「同年代の女性に読んでほしい。心に引っかかったり、共感したりするポイントが絶対にあります」と強く推す。

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