酸性の水質 改善中

《2》 クニマス 再び田沢湖に

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田沢湖クニマス未来館で展示されているクニマス
田沢湖クニマス未来館で展示されているクニマス
生保内小で行われた大曲農の生物工学部員(左から2人目)らによる出前授業
生保内小で行われた大曲農の生物工学部員(左から2人目)らによる出前授業
山梨県水産技術センター忍野支所の水槽では、クニマスが群れを成す様子が見られる=山梨県提供
山梨県水産技術センター忍野支所の水槽では、クニマスが群れを成す様子が見られる=山梨県提供

 仙北市の田沢湖畔にある「田沢湖クニマス未来館」。展示水槽の中では、体長20センチほどのクニマス※がのどかに泳いでいた。背中から口先にかけて楕円だえんを描くような姿形と、まん丸な目が特徴的だ。

 絶滅したと考えられていたクニマスが、約70年ぶりに山梨県の西湖で発見されたのは2010年(平成22年)。同県の施設で人工孵化ふかに成功し、17年5月、10匹が“帰郷”した。絶滅の昭和から、発見の平成を経て、クニマスが再び田沢湖にすむ環境づくりが、次の御代みよに託されることになった。

 「田沢湖にウグイはいるけど、ほかの魚は?」「いません」「何でいないのかな」「水が酸性だから」――。田沢湖に近い仙北市立生保内おぼない小学校で昨年10月に行われた出前授業。講師は、県立大曲農業高の生物工学部員たちだ。

 同部は田沢湖の水質を、電気分解により中性化する研究に取り組む。国が1991年に中性化するための設備を稼働させたが、水質の改善が進んでいないためだ。同部は電気分解した湖水を同小に提供、児童らにメダカを飼育してもらい、水の安全性を確かめている。

 田沢湖では1940年を境にクニマスやウナギ、コイなど20種以上の魚が姿を消していった。戦時下の国策で、発電や農業用の水を確保するため同年、上流から玉川の水を引き込んだ。しかし、玉川は最上流部の温泉の影響を受けて強酸性の水質で、湖水の酸性化が一気に進み、クニマスは「幻の魚」となった。

 復活の足掛かりとなる情報が、クニマスの標本がある京都大に寄せられたのは2010年3月。西湖で捕獲された魚が持ち込まれ、鑑定の結果、クニマスと判明した。1930年代に西湖へ移された卵から孵化した子孫が、生き続けていたとみられる。「幻の魚」が「奇跡の魚」となった。

 山梨県水産技術センターではクニマスを西湖の漁業資源とするため、養殖の研究に取り組む。西湖で捕獲した個体から、人工授精して孵化させる技術は確立された。ただ、その生態については分からないことが多く、孵化させた個体からの繁殖には至っていない。

 地元の仙北市と県はクニマスの“帰郷”に向け、山梨県側と協議を進めると同時に、クニマス未来館を整備。2017年7月の展示公開にこぎ着けた。ただ、今は湖畔の「仮住まい」にいる状態。田沢湖の水質改善が道半ばということもあり、クニマスが「本宅」へ戻る日は、まだ遠い。

 それでも、次代につなぐ希望の灯は、燃え続けている。山梨県から貸し出された10匹のクニマスのうち7匹は死んだが、同県は「クニマスを通じた交流に期待している」(後藤ひとし知事)として、人工孵化させた個体を追加で貸し出す考えだ。

 「大学で勉強し、水質や魚の専門家になって戻ってきたい。田沢湖の環境を改善し、次の世代に引き継ぎたい」と、大曲農2年の鈴木雅子さん(17)。田沢湖で再び、クニマスが泳ぐ日が来ることを信じ、前を向いた。

(佐藤一志)

【※クニマス】 火山活動でできた田沢湖に取り残された紅ザケの陸封種。田沢湖だけに生息した固有種で、体長は30センチほどに成長し、古来、漁業の対象だった。1930年代に山梨県の西湖など数か所の湖へと卵が移送されたという記録が仙北市にある。同県水産技術センターの推定では、西湖の生息数は数千匹。

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61415 0 次代へ 2019/01/03 05:00:00 2019/01/03 05:00:00 クニマス(10月18日、仙北市の田沢湖クニマス未来館で)=佐藤一志撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190107-OYTAI50007-T.jpg?type=thumbnail

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