世界自然遺産 どう守る

《3》 白神山地 シカの脅威

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斎藤さんは「ブナは全ての生き物の命を支えている」と語る
斎藤さんは「ブナは全ての生き物の命を支えている」と語る
空に向かってまっすぐに伸びるブナの巨木(藤里町の岳岱自然観察教育林で)
空に向かってまっすぐに伸びるブナの巨木(藤里町の岳岱自然観察教育林で)

 ブナの原生林が、豊かな生態系を育んできた白神山地は昨年、世界自然遺産登録25周年を迎えた。生態系の元々の脅威は人の手による開発だったが、平成も終わりに近づく今、ブナの芽や樹皮を食い荒らすニホンジカという自然の脅威にさらされるようになった。

 白神山地には国の特別天然記念物のニホンカモシカや、クマゲラ、イヌワシといった希少な鳥類、クロサンショウウオやモリアオガエルなどの水生生物、木々の間をはう昆虫類など、2000を超える生物が生息している。

 「何もなかったはずのおらほの『だけ』が世界遺産になった。これがどれだけすごいことか」。昨年11月中旬、ブナの白い幹が並ぶ白神山地・岳岱だけだいで、秋田白神ガイド協会会長の斎藤栄作美えさみさん(69)は1993年(平成5年)の世界自然遺産登録が決まった当時を、興奮気味に振り返った。「ブナは全ての生き物の命を支える。ブナがなくなってしまうようなことだけはあってはなりません」と固く口を結んだ。

 白神山地が価値を認められ始めたのは80年代のこと。青森県西目屋村と秋田県八森町(現八峰町)を結ぶ「青秋林道」建設計画への反対運動が活発化したのがきっかけだ。開発によって、豊かなブナ林が分断されるとの危機感から、地元住民らが声を上げ、自然保護の専門家らの関心が集まった。

 90年には、林野庁が白神山地を森林生態系保護地域に定め、林道開発計画は凍結。93年12月、世界自然遺産登録が決定した。入山者による自然への影響も懸念されたが、核心地域への出入りはわずかで、「人」の手からは守られた。

 しかし、昨年8月25日、関係者の間に緊張感が走った。ブナの原生林を調査していた森林総合研究所の堀野真一さん(62)は、赤石川上流部の核心地域で、獣に食いちぎられたジャコウソウを発見。「シカの食痕では」。思わずうなった。

 実はその1年前、林野庁が入山者の動向を調査するために設置したカメラがニホンジカの姿をとらえていた。繁殖すれば、森は食い荒らされる。そんな懸念が現実味を増したのだった。

 「世界遺産地域にシカが侵入して繁殖するというシナリオはすでに始まっている。将来を見据えた対策が急務だ」。堀野さんはそう訴える。ニホンジカは最大数百頭もの群れをつくり、繁殖力も強い。実際、昨年6月には、周辺で子ジカが初めて目撃された。

 秋田、青森県では明治時代にシカが姿を消したとされるが、環境省は10年以降、白神山地の麓の能代市、八峰町、藤里町、青森県鰺ヶ沢町、深浦町、西目屋村の6市町村で、計134件の目撃情報(昨年12月26日現在)を確認している。

 秋田県立大の蒔田明史教授(63)(森林生態学)は、「生態系への影響は確認されていないものの、予断を許さない」と警鐘を鳴らす。立ちはだかる“自然の脅威”から、自然遺産を守ることが、新たな時代に託された使命となっている。

(杉本和真)

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61356 0 次代へ 2019/01/04 05:00:00 2019/01/04 05:00:00 白神山地・岳岱のブナ林でで熱く語る斎藤さん。「この森でブナは全ての生き物の命を支える原動力なんです」(17日午後0時55分、藤里町の岳岱自然観察教育林で)=杉本和真撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190107-OYTAI50010-T.jpg?type=thumbnail

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