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豊田通商などが、センサーや通信機能などを備えた「スマートポール(多機能柱)」の実用化に向けた実験に取り組んでいる。自動運転車が検知しにくい歩行者や対向車などの道路情報を、車両に通知して事故を防ぐ。防犯や通信基地としても活用が期待されている。(藤井竜太郎)

■死角をカバー 昨年12月、長野県塩尻市でスマートポールを活用した自動運転支援の実証実験が行われた。自動運転車は、JR塩尻駅前をスタートし、市役所前のロータリーに入る約1キロ・メートルのコースを走った。
市役所前には、カメラや通信機器を搭載した高さ約7メートルのスマートポールが置かれた。自動運転車の死角になりやすい路上に止まっている車の有無や、右折してロータリーに入る際に接近する自転車や歩行者などをセンサーで探知し、車に通知した。
車は、事前に減速を行うなど、スムーズな自動運転を行った。
豊通コネクティッド事業部新技術事業開発チームの中村康明・チームリーダーは「スマートポールがくみ取った情報をスムーズに車両に伝達できた」と手応えを語った。
■危険交差点で効果 豊通は、国や自治体と協力し、2019年度からスマートポールによる自動運転や安全運転支援の実証実験を重ねている。
昨年7月には、20年の交通事故死者数が愛知県内で名古屋市に次ぐ2番目だった豊田市で実証実験を行った。
トヨタ自動車や同市などが取り組む官民連携事業「ジコゼロ大作戦」の一環として、見通しが悪く、事故が多発していた信号がない市道交差点の角に、スマートポールを設置した。
センサーで車やバイクの接近を探知すると、対向車にポールに取り付けられた発光ダイオード(LED)表示板で注意喚起する仕組みだ。
実験の結果、急減速や車両同士が接触しそうになる危険な事例が減ったという。同様の実験は兵庫県姫路市でも行われ、交通事故減少に向けた効果が得られたという。
■全国で計画 全国でも、スマートポールの実用化に向けた取り組みが進んでいる。
25年に開催される大阪・関西万博では、迷子になった子どもらを捜すため、会場に人工知能(AI)とカメラを組み合わせたスマートポール(高さ約6メートル)を、3本設置する予定だ。
関西電力が中心となって今年1月から会場となる人工島・夢洲(大阪市此花区)で実証実験を始めている。
東京都は都庁や高層ビル群が並ぶ西新宿エリアに、次世代通信規格「5G」や無線LANを一体的に利用できる通信基地局としてスマートポールの設置を進めている。
市場調査リポートの販売などを手がけるグローバルインフォメーション(川崎市)によると、スマートポールの20年の世界市場規模は約109億ドルだったが、28年までには540億ドルまで拡大すると予想されている。交通渋滞の解消や交通事故防止の需要、政府によるスマートシティーへの取り組みの拡大が普及を後押しするという。
ただ、国内の普及に向けては設置主体や費用負担をどうするかなど、課題も多い。
豊通の中村氏は「実験を重ねることで自治体や住民に有効性について理解を深めてもらい、実用化につなげていきたい」としている。
スマートポール 自動運転や防犯など活用場面に応じて、センサーやカメラ、ディスプレーなど様々な機器が搭載できる多機能柱。自動運転支援では、特定の条件下で緊急時も含めた自動運転「レベル4」の実現に向けた活用が期待されている。