【実践編】富士山(下) 山頂吹く風に達成感 登り下り自分見つめ

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実践編〈8〉
実践編〈8〉

 富士登山の2日目(7月14日)は、富士宮ルート7合目の山小屋を出発し、2時間かけて9合5 しゃく (標高約3500メートル)まで登った。目前に迫った頂へと、焦らず、マイペースで最後の急斜面にアタックする。

 山頂までの最後の山小屋がある9合5勺からは、山頂部や、そこへ至る道筋がはっきりと見えた。「いいペースで来ているから、その調子で」。写真グループの尾賀聡記者(49)に背中を押された。

 砂利の道を右へ、左へ折れながら、しばらく登っていくと、谷のような地形になった。両脇の赤茶色と黒っぽい壁が上に向かって延びている。ごつごつとした岩が多く、勾配はさらに急になった。息があがり、脚は重く感じる。

山頂直下の鳥居をくぐる(7月14日午前6時15分)
山頂直下の鳥居をくぐる(7月14日午前6時15分)

 岩の斜面に立つ、山頂直下の鳥居が近づいてきた。はやる気持ちを抑え、立ち止まって深呼吸を繰り返す。岩を一つひとつ丁寧に踏んで進み、ゆっくりと鳥居をくぐった。午前6時過ぎ、登りきったところに、富士山本宮浅間大社(静岡県富士宮市)の奥宮が鎮座していた。標高約3700メートル、富士宮ルートの山頂だ。

 「お疲れさまです」。尾賀記者と声をかけ合い、達成感をかみしめる一方で、何より、けがや体調の異変なく登頂できてホッとした。奥宮前の広場でザックを下ろし、パンを食べた。雲海はどこまでも広がり、空と一体になっていた。吹き抜ける風は冷たく、心地よい。

富士山山頂の巨大な火口=尾賀聡撮影
富士山山頂の巨大な火口=尾賀聡撮影

 山頂には直径約800メートルに及ぶ火口があり、その縁に最高峰の剣ヶ峰(標高3776メートル)がある。休憩後、火口縁の急勾配「馬の背」を登り、短い石段を上がると、「日本最高峰富士山剣ヶ峰」と刻まれた石碑が立っていた。前日を含め5時間余りでたどり着いた最高地点にしばしとどまり、余韻に浸った。

尾賀記者(右)と剣ヶ峰に立った
尾賀記者(右)と剣ヶ峰に立った

 石碑の周りでは、登山者が記念写真を撮っていた。熊本県から訪れた原拓也さんは転職を前に富士登山に初挑戦。「苦しかったけど、登頂でき、新たな一歩が踏み出せそうです」と話し、同行した作田史佳さんと喜びを分かち合った。

 火口の縁をぐるりと1周する「お鉢巡り」は、剣ヶ峰など八つの峰にまつられた神仏を拝んで巡ったのが始まりとされる。吸い込まれそうな火口を見ながら、古来の習わしに沿って時計回りで1周した。

 下山には、隣の御殿場ルートを途中まで利用した。けがや遭難の多くは下山中に起きる。注意はしていたが、8合目に向かう途中、踏んだ石がずれ、見事に転んだ。けがなく済んだが、やはり油断は禁物だ。

 雲行きが怪しく、7合目で雨脚が強まった。砂利の斜面に入り、滑るように一気に下った。頭上で雷鳴がとどろく中、分岐から富士宮ルートへ戻り、午後0時半、出発地点の5合目に無事、到着した。

 登りと山頂巡り、下りを合わせて10時間。優美で端正な姿以外にも、荒々しさや重量感、刻々と変化する風など、山頂を目指してみて知ることが多くあった。息を切らしつつ、無心になり、時に日常のあれこれに考えを巡らせる。自分と向き合うには十分な時間でもある。

 誰もが一度は富士山に登ってみたいと思ったことがあるのでは――そんな思いを実現する手助けにもなればと、昨年2月に始めたこの連載は、一時休載を経て、今年4月に再開した。

 この間、富士山の魅力や登山の心得、新型コロナウイルス対策なども紹介した。移動に制約がある今、一歩を踏み出しにくい状況にあるかもしれない。それでも、「いつかは」と望む人たちを、富士山は待っていてくれるだろう。

(連載「続いつかは富士山!」は今回で終了します)

社会グループ 磯野大悟 44歳
社会グループ 磯野大悟 44歳
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2324684 0 いつかは富士山! 2021/08/29 05:00:00 2021/08/29 05:00:00 2021/08/29 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/08/20210829-OYTAI50005-T.jpg?type=thumbnail

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