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名古屋証券取引所に上場する主な40社(金融除く)の2022年3月期決算のうち、38社が増収だった。コロナ禍からの回復傾向が鮮明となった。ただ、原材料費や燃料費などの高騰で減益や最終赤字となった企業は10社に上り、明暗が分かれた。(中島幸平)
■回復広がる 回復は幅広い業界に広がった。
コロナ禍で旅客数が大きく落ち込んだJR東海は3年ぶりに増収となった。東海道新幹線と在来線の運輸収入が38・0%増となった。金子慎社長は決算記者会見で「社会全体で感染症への対応力が高まっている」と分析した。
海上輸送を手がける伊勢湾海運は、運賃の上昇が追い風となり、売上高が2割以上増えた。高見昌伸社長は「製造業の生産活動が活発になり、輸出が増えた」と説明した。
増収で最終利益も黒字に転換した木曽路の内田豊稔社長は「お客様がコロナとの付き合い方を理解し、少しずつ外食の動きが出てきた」と振り返った。
■円安で明暗 急速に進む円安で、一部企業では海外で稼いだ利益を円換算した金額が膨らんだ。
トヨタ自動車は、円安で本業のもうけを示す営業利益が6100億円も押し上げられたこともあり、売上高、営業利益、最終利益がいずれも過去最高を更新した。
ブラザー工業は124億円、オークマは38億円の増益に結びついた。
米国などでガス機器を販売するリンナイは、営業利益ベースで13億7000万円の円安効果があった。ただ、製品に使う銅などの原材料の費用が50億円以上増えるなど、コストの上昇をカバーできなかった。内藤弘康社長は「今回は円安のメリットをあまり感じられない」と述べた。
輸入が多い外食企業には円安がマイナスに働いている。営業利益が6億2000万円の赤字だった飲食チェーンのサガミホールディングス(HD)の伊藤修二社長は「円安の影響がさらに大きくなれば、再度の価格改定が必要になるかもしれない」と話す。同社は4月、原料高などでメニューを一部値上げしている。
■原材料高騰 世界的な原材料費やエネルギー価格の高騰は、自動車部品メーカーや運輸業界の収益を圧迫した。
トヨタ自動車グループの豊田合成と愛知製鋼は増収だったものの、樹脂や鉄スクラップなどの調達費が膨らみ、減益だった。調達費の高止まりが懸念されており、愛知製鋼の藤岡高広社長は「世の中の潮目が変わった」と指摘した。
原油価格の上昇も重荷となった。名鉄運輸は、燃料費が前年度比で約15億円増え、減益となった。燃料費は、セイノーHDが約27億円、三重交通グループHDは約3億円の利益の下押し要因となった。
中部電力は8年ぶりに赤字に転落した。市場から調達している電力の価格が上昇し、一部で採算割れとなった。林欣吾社長は「エネルギー価格の世界的な高騰で厳しい状況」と語る。
23年3月期の業績予想は、40社のうち14社が減益、2社が「未定」としており、慎重な姿勢が目立つ。
露侵攻 マキタやノリタケ重荷
ロシアのウクライナ侵攻は、企業業績にも影を落としている。
日本特殊陶業は22年3月期決算で、ロシア・モスクワの販売拠点の停止に伴い、約15億円の損失を計上した。電動工具のマキタは、ロシア向けの商品の出荷を止めている。後藤宗利社長は「(ウクライナ情勢が)欧州市場に与える影響を非常に心配している」と話す。
ノリタケカンパニーリミテドは、日本政府が経済制裁を始めた今春以降、ロシア向けの高級食器の輸出を停止した。従来は、年間5000万円程の売り上げがあったという。
トヨタのロシア工場は3月から稼働を停止している。
ウクライナ情勢が追い風となるケースもある。貴金属の取引を手がけるコメ兵HDは、売上高と利益ともに過去最高を更新した。金や高級時計などの販売や買い取りが好調で、6億円近くの増益効果があった。国際情勢の不透明感が増す中で、金や銀といった貴金属の高騰が続いているからだ。