第3回

下町人工衛星 再挑戦へ

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宇宙空間を飛ぶ「がまキューブ」の想像図(西尾正則教授提供)
宇宙空間を飛ぶ「がまキューブ」の想像図(西尾正則教授提供)

 「下町の人工衛星」に、新たな命が吹き込まれた。

 愛知県蒲郡市の愛知工科大学と、地元企業が共同製作した1辺約10センチ、重さ1・36キロのジュラルミン製の超小型衛星「AUTcube2」。手のひらサイズの立方体(キューブ)には「がまキューブ」の愛称がつけられ、宇宙航空研究開発機構( JAXAジャクサ )などが、鹿児島県・種子島宇宙センターから2018年10月に打ち上げたH2Aロケットで、宇宙空間へ旅立った。ところが、そのまま「音信不通」となってしまう。

 開発に携わった同大の西尾正則教授(66)は、失敗の原因究明に力を注ぎ、そうして昨年、後継機を完成させた。その名も「がまキューブ00(ゼロゼロ)」。果たせなかった成功を今度こそ手中に収めようと、リベンジの時を待つ。

「がまキューブ00」を手に、「次こそ成功を」と語る西尾教授(愛知県蒲郡市の愛知工科大で)=沢村宜樹撮影
「がまキューブ00」を手に、「次こそ成功を」と語る西尾教授(愛知県蒲郡市の愛知工科大で)=沢村宜樹撮影

 「がまキューブ」には、町工場の技術の粋を結集させている。宇宙工学が専門の西尾教授が設計を担当し、自動車、光学、医療機器などの部品加工をしている地元企業7社が衛星の壁面や内部部品などを手がけた。

 JAXAが求める寸法に対し、誤差は100分の1ミリ。18年の打ち上げでは、ロケットからガイドレールの上を滑らせ、宇宙空間に放出させるミッションも見事にクリアした。

 7社のうち、精密部品加工業「蒲郡製作所」の伊藤 智啓としひろ 社長(61)は「航空宇宙産業で、それぞれの企業が高い技術を持っているという証明になった。職人たちの技術力の向上が図られただけでなく、企業同士の交流も生まれ、活気が出た」と語る。

「がまキューブ」を搭載し、打ち上げられたH2Aロケット(2018年10月29日、鹿児島県・種子島宇宙センターで)
「がまキューブ」を搭載し、打ち上げられたH2Aロケット(2018年10月29日、鹿児島県・種子島宇宙センターで)

 しかし、放出後、がまキューブからの電波信号を受信できなくなった。西尾教授は「本来は自動的に入るはずの電源が入らなかった。電源スイッチか、電源に電気を送る制御回路に不具合が発生した可能性が高い」と分析。「みんなの苦労や知恵を凝縮させた人工衛星だっただけに、本当に悔しかった」と振り返る。

 その後も粘り強く不具合の原因解明を進める中、全国10高専の学生による超小型衛星「KOSEN―1」開発プロジェクトのメンバーから、協力の依頼が舞い込んだ。

 西尾教授は約2年がかりで、がまキューブに組み込んだ電源部分の基板を一から作り直し、命令を伝えるプログラムを新たに作成した。KOSEN―1は昨年11月に打ち上げられ、この衛星からのモールス信号を地上で受信できた。愛知工科大でも、安定的に電波を出し続けていることを確認し、西尾教授は「思わずガッツポーズした」。

 KOSEN―1の成功が、がまキューブの再挑戦を後押しする。現在、東京都市大学などが、「星のかけらプロジェクト」と銘打ち、小型人工衛星からミニ衛星を放出させる計画を進めており、西尾教授はこのプロジェクトに参加しようと、昨年3月から地元企業などと「がまキューブ00」の開発に取り組んできた。

 電源部分の改良に加え、サイズを変えずに衛星本体を350グラムまで軽量化させた。昨年12月には試作機を使った実験を行い、打ち上げ時にかかる重力や振動にも耐えうることを確認した。

地上から肉眼でも観測可

 新生がまキューブは、初代が果たせなかった「わくわくするミッション」を引き継ぐ。600キロ上空で、強い光を出す8個の発光ダイオード(LED)ライトを使い、6等星より明るい光で、地上から肉眼でも観測できるようにする。さらに、地上からの命令で点滅させ、モールス信号のように、情報を伝達する実験も実施。二つの魚眼レンズを備えたカメラで全方位を撮影し、その画像を仮想現実(VR)の技術で、宇宙遊泳が体感できる映像などに活用することを目指す。

 「地元の職人らの熱い思いが詰まった『がまキューブ』は、宇宙との距離をぐっと縮めてくれる。新たな挑戦は、何としても成功させたい」。力強いまなざしで、空のかなたへ思いをはせる。(沢村宜樹)

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