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三重県尾鷲市の市立天文科学館。口径81センチの望遠鏡を、来館者が代わる代わるのぞき込む。3歳の男児が望遠鏡に取り付けられたカメラのシャッターを押すと、天体観測指導員の湯浅祥司さん(72)は「人生で初めて撮影した写真が天体写真やなあ」と目尻を下げた。
昨年11月19日、部分月食の観望会。月の約98%が隠れる「ほぼ皆既」は珍しい現象だったが、中心市街地にある施設には、週末は親子連れが集う。
1990年、誰もが気軽に大型望遠鏡をのぞける施設の建設は国内初だった。湯浅さんは「生みの親」だ。政府の「ふるさと創生1億円事業」で、市がお金の使い道を公募していると知り、建設を提案したのだ。
本職は管工事業。中学3年の夏休みに直径15センチのガラスを磨き、望遠鏡を手作りしてから、天体観測を続けてきた。86年には、自ら特殊加工したフィルムでハレー
「せっかくならもっと大きな望遠鏡で、みんなで星を見たい」と書き上げた30ページの企画書は
仕事を終えると天文科学館に向かい、星空を案内する。「自分だけで撮るより値打ちがある」と、5年前からは来館者にカメラのシャッターを押してもらうように。アンドロメダ銀河やすばるなど全110種の「メシエ天体」の撮影に3年がかりで成功し、カタログにもまとめた。
「一生でただ1度しか出会えない」天体ショーにわくわくする気持ちは衰えない。夜空を見上げ、これからも星の美しさと宇宙の不思議を伝え続けると誓う。
天体観測どこででも

「初回は中秋の名月。参加者には月見団子も食べてもらいました」。三重大教育学部長の伊藤信成さん(54)(天文学)は約10年前の観望会を笑顔で振り返る。以来、担当する天文学研究室で市民を対象に、年4回ほど観望会を開いている。
会場は津市にある大学屋上の天体観測ドーム。コロナ禍の今はオンライン配信だが、科学的な話も織り交ぜた学生の解説は好評だ。
宇宙の世界へ
「見上げればそこにあり、いつでも、どこでも、誰でも見ることができる存在が宇宙」。だから今年も、街中のドームから、その魅力を伝えていくつもりだ。(根岸詠子、小山哲夫)
空宙博 カミオカ プラネタリウム



この地方には宇宙を体験できる注目のスポットが数多くある。
岐阜県各務原市の「岐阜かかみがはら航空宇宙博物館(愛称・
宇宙から降り注ぐ素粒子「ニュートリノ」の観測施設「スーパーカミオカンデ」の地元・同県飛騨市にあるのは、「ひだ宇宙科学館カミオカラボ」。高さ7メートル、幅9メートルの円柱状の巨大スクリーンや光センサー「光電子増倍管」の模型で、施設内部が再現されている。
「名古屋市科学館」(名古屋市中区)には、内径35メートルの世界最大級のプラネタリウムがあり、学芸員の解説付きの投影が楽しめる。口径80センチの望遠鏡で観望会も開いている。天文主幹の野田学さんが今年注目するのは、11月8日の皆既月食。名古屋では午後7、8時台に皆既食となり、子どもにも観測しやすい。「空を見上げて、私たちが存在している『宇宙』を感じてください」