第2弾<上>

月や火星の砂で「宙農」

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 果てしなく広がる大宇宙は、様々な夢をかき立てる。月面で農業、太陽系外の惑星探査、会社員による人工衛星開発――。今年1月の連載の第2弾。想像力が生み出す創造力で、胸に抱いたロマンの実現に迫る人たちを追った。

人工土壌でおいしい野菜

TOWINGの研究農園で高機能ソイルを使った農作物の栽培について説明する西田さん(愛知県刈谷市で)=稲垣政則撮影
TOWINGの研究農園で高機能ソイルを使った農作物の栽培について説明する西田さん(愛知県刈谷市で)=稲垣政則撮影

 地球外の天体でおいしい野菜を作ろう! 名古屋市のベンチャー企業「TOWING(トーイング)」は、月や火星の砂を 肥沃ひよく な土壌に変え、農作物を栽培する計画を進めている。名づけて「 宙農そらのう 」――。

 米航空宇宙局(NASA)の宇宙船「アポロ11号」の飛行士が1969年に人類として初めて月に降り立って50年余り。米国は現在、有人月探査「アルテミス計画」で、2025年以降の月面着陸を目指す。

 月面で長時間活動するには、大量の食料が必要だが、地球から運ぶと膨大なコストがかかる。TOWING社長の西田宏平さん(28)は「自分たちが開発した技術を使えば、月面で活動する宇宙飛行士に、新鮮な野菜を提供できる。『地産地消』ならぬ『月産月消』も、もう夢物語ではないんです」と意気込む。

 ☆ ☆ ☆

 中学生の頃から宇宙に強くひかれていた。弟の亮也さん(26)と、宇宙飛行士を目指す兄弟の漫画「宇宙兄弟」を夢中になって読み、「将来は宇宙に関係する仕事に就こう」と語り合った。

 進学した名古屋大学では地球惑星科学を専攻。研究室を訪ね歩く中で、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が開発した土「高機能ソイル」を知った。植物の炭やセラミックなど、小さな穴がたくさん開いている物質「 多孔体たこうたい 」に、農作物を育てる時に欠かせない「硝化菌」を含む微生物を大量に入れ、有機肥料を投入したものだ。西田さんによると、3~5年はかかる農栽培用の土壌作りが1か月でできる。

 小さな頃、祖父母が育てた野菜が大好きだった。その原体験が、「全ての人が、おいしい野菜を食べられる世界を実現したい」という思いを育んでいた。

 同大大学院で学生起業家育成講座に参加した際、「火星でビジネスをするなら?」との質問を受けてひらめいた。「高機能ソイルを使って、火星でおいしい野菜を栽培したら面白い」。「宙農」の実現に向けた夢が、胸に去来した。

 大手自動車部品メーカーに就職し、会社勤めの傍ら、細々と続けていた「宙農」は、宇宙ビジネスのアイデアを募集する内閣府主催のコンテストや、起業家らのイベントで、相次いで受賞。これを受け、「本格的に取り組もう」と決意し、20年2月にTOWINGを設立した。亮也さんも博士課程に進み、同社の技術開発を担当、2人で「宇宙に関係する仕事」に踏み出した。

 しかし、実際に高機能ソイルを使って、野菜や果物を栽培できるようにするまでには、試行錯誤の連続だった。粒の大きさ、製造時に窯で焼く温度や時間、入れる有機肥料の量――。実用化に向け、手探りで開発を続けた。

 そうして今年2月、大手ゼネコン「大林組」との共同研究で、月の砂とほぼ同じ成分の「模擬砂」から作った高機能ソイルを使い、コマツナを栽培することに成功した。

 ☆ ☆ ☆

TOWINGが作成した月面での「宙農」のイメージ図
TOWINGが作成した月面での「宙農」のイメージ図

 TOWINGでは、地球でのプロジェクトとして、農家に高機能ソイルを提供し、良質な土壌で野菜や果物を育ててもらい、買い上げて企業に売るというビジネスモデルを作り上げ、様々なビジネスコンテストで披露。その結果、多くの資金が集まり、愛知県刈谷市に約5000平方メートルの研究農園を持つことができた。

 そこでショウガやイチゴなどの栽培を始め、今夏には葉ショウガやピーマンを出荷する。西田さんは「実際に収穫できたミニパプリカは、糖度が非常に高く、口いっぱいに甘みが広がる自信作」と胸を張る。

 「農業で大事なのは、おいしい野菜や果物が育つ土壌作り。高機能ソイルを使った農業を極めれば、月や火星での『宙農』にも応用できる」

 社名のTOWINGは、英語で「引っ張る」の意。「みんなを宇宙まで引っ張っていく」という西田さんの夢と決意が込められている。(沢村宜樹)

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2972557 0 私を宇宙に連れてって 2022/05/04 05:00:00 2022/05/04 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/05/20220504-OYTAI50018-T.jpg?type=thumbnail

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