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会社員 人工衛星に情熱

「あなたの『お願いごと』を僕らが打ち上げる人工衛星で夜空に届け、流れ星にして
設置したのは民間団体「リーマンサット・プロジェクト」名古屋支部のメンバー。名称は、サラリーマンとサテライト(人工衛星)を組み合わせた造語だ。その名の通り、一般の会社員が宇宙開発に携わっている。
東京のメンバーは、会社員や町工場経営者で、昨年3月、国際宇宙ステーション(ISS)から、通信機などの電子基板を手作りした10センチ角の人工衛星「RSP―01」を放出。集めた願いごと約1万7000通とともに、無事に宇宙へ届けることができた。
名古屋支部は2019年6月、名古屋市守山区のIT系会社員近藤健さん(32)が設立した。近藤さんは小さな頃から、宇宙への憧れを胸に抱き続けている。1997年、米国の探査機「マーズ・パスファインダー」が火星に着陸し、探査活動を始めた際は、そのニュースを報じるテレビにくぎ付けになった。小学5年だった2000年、タイムカプセルに入れた「将来の夢」は「宇宙開発」だった。
会社員として働きつつ、約8年前からはスカイワードあさひで星空などを解説する天文ボランティアを始め、製造系会社員の弟・淳さん(28)も誘い、子どもたちに宇宙の魅力を伝え続けている。人気漫画「宇宙兄弟」になぞらえ、周囲の人たちから「愛知の宇宙兄弟」と呼ばれるという。

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健さんは18年12月、「誰でも宇宙に関われる」と聞き、東京で開かれたリーマンサット・プロジェクトの会合に初めて参加した。話は専門的すぎてチンプンカンプンだったが、「自分も宇宙開発に携わりたい」と入会を決めた。「愛知はものづくり王国。同じ夢を抱く技術者も多いはず」。そのもくろみ通り、「宇宙仲間」は着実に増えていった。
兄に続いてメンバーになった淳さんは、自宅の物置を改装し、旋盤などの製造機械をそろえて「近藤製作所」の看板を掲げた。兄同様、宇宙好きの淳さんは、高校時代からロケットエンジンを作っていたという。
昨年1月、自動車部品製造機械を手がけるエンジニアの瀧田伸幸さん(49)が加わった。「宇宙戦艦ヤマト」「ガンダム」などを見て、宇宙への憧れを募らせていたという。管理職となった現在は「時間に余裕もできたし、もう一度、子どもの頃に夢見た宇宙を舞台に、エンジニアとして腕を振るいたい」と意欲を燃やす。
バネ製造会社「杉浦発条」(愛知県高浜市)の専務・杉浦弘則さん(40)は、「父の作ったバネを人工衛星に組み込みたい。宇宙に飛ばすことで、職人としてのすごさの証明になる」と、昨年6月に入会した。
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「RSP―01」について、名古屋支部は、地上から命令を送る運用システムの開発に携わった。健さんは愛知、岐阜県の28か所に宇宙ポストを設置し、集まった409枚の願いごとを「RSP―01」に載せた。
現在、同支部メンバーは愛知、岐阜、三重県などの26人で、来年度にも再び宇宙を目指す「RSP―02」の電子基板の設計など、多くの技術を提供。スカイワードあさひの宇宙ポストに入れられた願いごとも積み込む。
「名古屋は今、すごく熱い開発拠点。サラリーマンである自分たちの手で、人工衛星を作り上げたい」。健さんが伸ばした手は、描き続けた夢に届きそうだ。(沢村宜樹)