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三省堂書店名古屋本店 本間菜月さん
様々なジャンルの本を

前を向ける家族小説
もともと家族小説をたくさん書いている作家だが、「水を縫う」は群を抜いてよかった。2021年本屋大賞の受賞を信じて疑わなかったが、1次審査で12位。「うそでしょ」って思った。
縫い物が好きな高校生の男の子、かわいいものが嫌いな姉。この小説の登場人物は、他人と少し違うところがあり、どこか生きづらさを感じている。一章ごとに、それぞれの視点で話が進む。みな自分のやりたいことがあって、相手を思いやる気持ちもあって、そうして最後の章では、全員が前を向けるようになる。
「男の子っぽい」「女の子っぽい」って、悪意なく口にするけれど、その言葉がトゲになって、胸に刺さる子もたくさんいる。この本が色んな人に読まれれば、息苦しい思いをする人も少なくなるんじゃないかな。「自分の好きなことは好きでいていいんだ」と、心に響く。
寺地さんは、「ガラスの海を渡る舟」(PHP研究所)が2022年本屋大賞の1次審査で惜しくも11位だったけれど、この本もめちゃくちゃ良い本!! 周囲に合わせることができない兄と、対照的な妹のお話。2人が引き継いだガラス工房で、兄は天才気質の才能を発揮するが、妹はコツコツやっているのに、思い通りにならない。

きょうだいで比較され、心に屈託を抱えることは、多くの人が直面していると思う。
店舗のPOPには、「どうしても、自分に無いものがキラキラ光ってみえてしまうけど、無いものを
どちらも、若い人にこそ読んでほしい。
「悪い家族」の小説では、武田綾乃さんの「愛されなくても別に」(講談社)がすごく良かった。主人公の女の子が毒親から逃げ出すストーリー。武田さんと言えば、ヒットしている「響け!ユーフォニアム」シリーズのように、キラキラした青春を描く作家というイメージだが、「黒い方」も書けるのかと驚いた。
自分を大事にして、どうやって生きていくかを追求し、主人公が殻を破っていく描写がすばらしい。特にラストシーンがかっこよくって、すごく筆力のある作家だと感心した。
今回はお薦めとして家族小説を挙げたが、ミステリーも大好き。定番中の定番でいえば、宮部みゆきさんの「火車」。これもラストシーンのかっこよさはずば抜けている。失踪した女性を追い続け、結末を迎える最後の1ページは、本当に衝撃的だった。
本間さんおすすめの10作品
「探偵が早すぎる」井上真偽
「火車」宮部みゆき
「ジェリーフィッシュは凍らない」市川憂人
「十角館の殺人」綾辻行人
「蒼海館の殺人」阿津川辰海
「重力ピエロ」伊坂幸太郎
「きみの友だち」重松清
「愛されなくても別に」武田綾乃
「森に眠る魚」角田光代
「ガラスの海を渡る舟」寺地はるな