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丸善名古屋本店
(@MARUZENNAGOYA) 森次格子さん
丸善名古屋本店(名古屋市中区)のスタッフ森次格子さんは、多くの人に読んでほしい本として、二村ヒトシさんの「なぜあなたは『愛してくれない人』を好きになるのか」を挙げた。「親子関係で苦しんでいる人に、ぜひお薦めしたい」という。
親子関係が生む「心の穴」

メインの内容は、恋愛に関すること。恋愛に至る前の人間関係で土台になるのは「家族との関係」という視点で書かれている。仕事をしていて、結婚も視野に入っている20歳代から30歳代の女性には、特に心に刺さるのでは。
私が読んだのは5年くらい前。当時、参加した東京での読書会に二村さんも来られていて、話すようになったのが、著書を手に取るきっかけだった。
親子関係で悩みを抱えている方は、この本の6章「すべての『親』は子どもの心に穴をあける。」だけでも読んでほしい。書中では「自分を苦しめる感情」について、幼い頃の親との関係にあると言及。親の望み通りにできない劣等感、愛してほしいだけ愛してもらえないさみしさや悲しさ、親を悲しませる罪悪感。それらを全部ひっくるめて「心の穴」と表現している。
仕事帰りに満員の電車の中で読んでいて、「私のことだ、これまでもやもやしていた感情はこれだ」と気づき、救われた気持ちになって、衆人環視の中だったが、何だか泣いてしまった。
この本ではさらに、生きづらさを感じたり、苦しさを覚えたりすることは、いったん全部親のせいにすればいい、とも指摘している。それは親を憎むということではなく、自分がなぜそういうふうに行動するのか、なぜそう考えるのか、自己分析するための一歩だと説いている。
あいてしまった穴を無理やり埋めようとしても苦しいだけだが、原因がわかることで、気持ちは楽になると思う。
二村さんの著書はたくさん読んだ。「僕たちは愛されることを教わってきたはずだったのに」(角川書店)は、自身が読んできた少女漫画について分析している。少女漫画によって愛される作法を教わってきたはずなのに、なんだかうまくいかない、生きづらい。それはなぜだろうという疑問を解消するための本である。
私がお薦めする少女漫画は、テレビドラマにもなった萩尾望都さんの短編「イグアナの娘」。娘を愛せない母親と、愛されたいのに、なぜ嫌われるのかわからず悩む娘。娘が最後に、母親と自分が似ていたことに気づくまでが描かれる。こちらも親子関係に悩んでいる方に読んでほしい。
萩尾さんの作品では、「メッシュ」も紹介したい。主人公は男の子だが、やはり親子関係に問題を抱えている。母親には捨てられ、父親ともいざこざがある。対立は解決しないまま、日常が続いていく。
こうした作品にどっぷりつかって、もやもやする気持ちを投影すれば、自分が救われることもあるのではと思う。
森次さんおすすめの10作品
「恋愛論」橋本治
「どうすれば愛しあえるの」宮台真司、二村ヒトシ
「欲望会議」千葉雅也、二村ヒトシ、柴田英里
「あなたの恋がでてくる映画」二村ヒトシ
「僕たちは愛されることを教わってきたはずだったのに」二村ヒトシ
「イグアナの娘」萩尾望都
「メッシュ」萩尾望都
「閨房の哲学」マルキ・ド・サド、秋吉良人訳
「快楽主義の哲学」澁澤龍彦
「あなたの好きな少女が嫌い」(「女が死ぬ」より)松田青子