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読売新聞中部支社編集センター 公式ツイッター
「中の人」
「時価」でも読みたい傑作
絶版になっているけれど、価値ある書籍を紹介したい。この欄の担当者で、「読売新聞中部支社編集センター」公式ツイッターの「中の人」をしている記者が、そんな思いから筆を執った。本の価値を計る定義とは? 極めて難しい問題だが、今回はインターネット通販サイトの価格を基準にした。即物的すぎるとあざけるなかれ。どうしても欲しい、読みたい、という需要があるからこそ高価にもなる、と思う。記者の個人的な蔵書から、ネットで「時価」を調べて驚いた小説を取り上げる。

知性を持つ水
「液体インベーダー」は児童向けの「海外SFミステリー傑作選」の第7巻で、初版は1995年11月。科学者が、山中の湖から持ち帰った「生きている水」と意思の疎通を試みたところ、高い知性を持っていることに気づく。凶暴化し、人類に危機をもたらす液体生物と戦う軍隊。児童書らしからぬ、緊迫感ある展開を見せるハードSFだ。
映画化されたSF小説「ソラリス」でも、「意思を持った海」が描かれる。スタニスワフ・レムが、この作品を発表したのは1961年。「液体インベーダー」のあとがきによると、著者のラルフ・ミルン・ファーリーは、1930年代、米国でSFがはやり始めた頃の流行作家の一人という。
かなり先駆的な作品だと思うのだが、邦訳されたファーリーの著作は、これ以外に見つけられない。大手通販サイトでは、定価(1000円)の何十倍もの値段で売られており、全20巻の「傑作選」シリーズ中、最高額だった。
復刊進まず高騰

ほかに挙げた10冊も通販サイトで高騰している。現状で最高額なのは、岐阜県出身の江戸川乱歩賞作家・梶龍雄の「男と女の探偵小説」。主に昭和50年代、月刊誌に発表した計8編が収められている。
梶の本格ミステリーの傑作と名高い「龍神池の小さな死体」が今年4月、徳間文庫から復刊された。帯では「50冊近い著作を残したが、90年の逝去以来復刊が進まず。ネット古書価格は軒並み5桁を超える」と紹介されている。作家の三津田信三さんは同書の解説で、「本格ミステリの完成度を高める最大の要素」である伏線と、推理を誤導させる偽の手掛かりの二つが見事に機能していると評する。
挙げた本の中には、電子書籍版が数百円で売られている文庫もある。どこに付加価値を見いだされるかわからない。それが手に入れた本を手放せない理由の一つになっている、というのは言い訳か。かくして古書・新刊は積み上がり、我が家を侵食し続けている。
(渡辺康史)
古書店で見かけたら購入おすすめの10冊
「男と女の探偵小説」(光風社ノベルス)梶龍雄
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「未来獣ヴァイブ」(ソノラマノベルス)山田正紀
「風果つる館の殺人」(カッパ・ノベルス)加賀美雅之
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「ぼくらはみんな閉じている」(新潮社)小川勝己
「仮面幻双曲」(小学館)大山誠一郎
「異郷の帆」(青樹社)多岐川恭
「天使の殺人 完全版」(創元推理文庫)辻真先
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