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和紙の美紡ぐ人間国宝

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紙漉きの作業は体力を要する。高齢になった岩野さんは頻度は減ってきたが今も工房に立つ(越前市で)
紙漉きの作業は体力を要する。高齢になった岩野さんは頻度は減ってきたが今も工房に立つ(越前市で)

紙漉きの里・越前 岩野市兵衛さん

 県のほぼ中央に位置する越前市には、「五箇ごか」と呼ばれる「紙きの里」がある。和紙作りの歴史は奈良時代に遡る。清き心で清水で漉いて干した奉書の色白さ――。地元に伝わる「紙漉き唄」の一節にもあるように、澄んだ水と豊かな自然が、高度な技術を育んできた。その芸術性、デザイン性は現代アートの世界でも評価され、近年、国内外の芸術家が和紙を使った作品を生み出している。和紙作りの伝統と今を紹介する。(長沢勇貴)

 〈あの原始的な作業からどのように輝くような美しい紙が漉き上がるのか、その人と手わざを書きたいと思ったからだ〉

和紙作りの伝統を守ってきた越前市五箇地区
和紙作りの伝統を守ってきた越前市五箇地区

 福井市出身の作家・津村節子さん(93)は、「越前奉書」の紙漉き技術者で、人間国宝の九代岩野市兵衛さん(87)の工房を訪れた時の印象をエッセー集「桜遍路」につづっている。和紙との出会いは後に、紙漉きの家を舞台にした小説「花がたみ」を生んだ。

海外美術館から注文

 「この紙、引っ張ってみぃ」。4日、越前市大滝町にある岩野さんの自宅兼工房を訪れると、岩野さんは自作の紙を記者に差し出した。どんなに力を入れても裂けない様子に「ねぇ、すごいでしょ」といたずらっ子のような笑みを浮かべる。

 2000年、親子2代の人間国宝に選ばれた岩野さんは、繊維が太くて長いコウゾを使って和紙を漉く。美しい光沢を持ち、しなやかで丈夫な岩野さんの紙は、米国・ボストン美術館で葛飾北斎の版画の復刻に使われ、パリのルーブル美術館も文化財修復用に注文する。

 「良い和紙は、にっこり笑いかけてくる。満足のいく紙はなかなか漉けない。死ぬまで1年生ですね」

 父・八代市兵衛は「習うより慣れろ」が口癖で、見よう見真似まねで仕事を覚えた。コウゾを均一に延ばす作業には、ミリ単位の正確さが求められる。「ほんの少し別のことを考えただけで厚さが狂ってしまう」という。

 漉き道具「簀桁すげた」を持つ角度の微妙な違いで、できばえが変わる。「家の名に恥じない紙を」との信念で取り組んできた。

衰えぬ創作意欲

 米寿を前にした今、紙を漉く回数こそ減ったが、創作への探究心は衰えていない。昨年は、現代アートの「今立現代美術紙展2020 今立アートフィールド展」に出品した。

 「無題」とした作品には、展示空間の天井から分厚いコウゾ紙を配した。光を透かして、東京五輪にちなんだ輪の模様が浮かび上がる。

 「普段は伝統的なものしか作らないので、美術作品では、遊びたい気持ちが湧いてくる。パッと思いついたものを、何も考えずに作品にした。アーティスト的なものではなく遊び心です」と創作過程を振り返る。

「職人魂」と「遊び心」

 <誰も真似の出来ない丹念さで、損得を無視し、かたくなに品質を保持し続けている職人魂>と、津村さんは和紙職人の精神を表現した。

 「『市兵衛さんの紙じゃないとあかん』と求めてくれる人がいる。命ある限り、紙漉きを続けます」と岩野さんは語る。

 その「頑なな職人魂」には、軽やかな「遊び心」も宿っている。和紙の可能性を広げる挑戦はこれからも続くだろう。

<越前奉書> 奉書とは、主人の意思を奉じた従者の署名によって発給する文書の形式。これを記す公文書用紙のことも指す。厚手のコウゾ紙が特色の越前奉書は格調高く、重厚な風合いを持つ。江戸時代、武家の公文書用紙として用いられ、高く評価された。

 ニュースをわかりやすく伝える「New門@福井」。6月は「紙漉きの里・越前」をテーマに連載します。

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2118267 0 New門@福井 2021/06/12 05:00:00 2021/06/12 05:00:00 2021/06/12 05:00:00 紙漉きについて語る岩野さん(越前市で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210611-OYTAI50001-T.jpg?type=thumbnail

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