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[南相馬市 7月] 一代限りの甲冑師

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 南相馬市原町区の住宅街にある8畳ほどの作業場。相馬野馬追を目前に控えた20日、甲冑(かっちゅう)師の安部光男さん(75)が、いまも現役で使われる江戸時代の(よろい)を修理していた。

 鎧には3000近い部品があり、一つ一つ確かめながら、激しい動きで傷んだひもを交換していく。息を詰めて小さな穴に通す繊細な作業だ。「こうして修理してみると、細かいところまで本当に大事に作り込まれていることが分かる」。新しさや効率を求める現代とは相いれない世界だと感じる。

 それにしても、今年は張り合いがない。野馬追までの3か月間は本来、早朝から未明まで仕事に追われ、年間の収益の7割が集中する多忙な時期のはずだった。しかし、新型コロナウイルスの影響で今年は縮小開催となり、多くの人が鎧や兜(かぶと)の修理を見送った。

 安部さんが生まれ育ったのは、甲冑競馬が行われる雲雀ヶ原祭場地のすぐ近く。子どもの頃から馬は身近な存在で、近所を行き交う農耕馬によく乗せてもらって遊んだ。当時の武者行列は現在の1・5倍の600騎ほども騎馬が集い、練り歩くルートも多く、にぎやかだった。

 高校を卒業後、父が営む鋳物工場で働きながら、見よう見まねで甲冑を直すようになった。年代や製作者によって甲冑や刀剣の味わいが微妙に異なるのが面白かった。高齢の父が工場を閉じたのを機に、地元で修理工房を始めた。このとき44歳。甲冑師としては遅咲きのデビューだ。鎌倉まで通い、専門家に約10年師事して修練を積んだ。

 甲冑の魅力は何か。安部さんは「時を重ねることでにじみ出る風格」だと答える。

 鎧や兜にも、15年ほど前からプラスチックを使った模造品が広まっている。一見軽いように見えて、重さは計30キロ近い。これに対し、本物の甲冑は20キロ前後。すねあてに厚さ0・5ミリの鉄板を使うなど軽量化の工夫を凝らしている。見た目の違いだけでなく、極めて実用的でもある。

 安部さんに後継者や弟子はいない。一代限りで閉じれば、相馬地方の修理工房は残り2か所に減る。

 「専門に直す人がいなくなれば、昔からの知恵や技術が途絶えてしまうんだが」。その口調は寂しそうだった。(柿井秀太郎)

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