定点観測連載「いま ここから」

[相馬双葉漁協 10月] 船の女神と「友達」

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 女性だからという理由で、漁師から乗船取材を断られることがある。

 「女の神様が嫉妬するんだ」

 相馬双葉漁協の組合長で底引き網漁の第八勝丸船主、立谷寛治さん(68)(相馬市)が説明してくれた。船自体が女性であり、自分の妻でさえ乗せてはならないと幼いころから教わってきたという。

 新地町在住の民俗学者・川島秀一さん(67)によると、同様の風習は全国の浜にある。昔、漁師の夫が妻に帆の張り方を教わった。それを恥じて夫は妻を殺し、その代わりに船の神様とした――。禁忌をめぐり、そんな不穏な言い伝えも残る。

 月経や出産など血を連想させる女性は不漁をもたらす、という考え方もある。海の習俗を約40年研究してきた川島さんは、釣師浜の船の乗組員として漁にも出る。「産忌さんぴ食ったな」。地元の漁師たちは不漁の日、そう言ってぼやく。

 底引き網漁船は5人程度が乗り込む。これに対し、数人で操業する小型船は、震災後の人手不足も影響してか、女性の活躍が増えている。

水揚げ作業をする平さん夫婦(20日、南相馬市鹿島区の真野川漁港で)
水揚げ作業をする平さん夫婦(20日、南相馬市鹿島区の真野川漁港で)

 南相馬市鹿島区の真野川漁港。20日午前10時過ぎ、平正蔵さん(40)、加奈子さん(39)夫婦の平安丸が沖から戻った。今の時期はシラスの成長魚カエリの漁で、この日の漁獲は600キロとまずまずだった。2人は言葉を交わすこともなく作業を分担し、ものの10分で水揚げを終えた。

 4年前、正蔵さんと一緒に出漁していた父仁一さん(65)が漁の最中にケガをした。一人では仕事ができない。困り果てている夫に、加奈子さんが「私が漁に出るしかないよ」と声をかけた。

 最初は船酔いで苦しんだが、ロープの結び方や網の張り方を少しずつ覚えた。今では魚を冷やす氷の分量は加奈子さんの方が的確で、正蔵さんも信頼を置く。2018年は震災前に好調だった年をさらに上回り、年間最高の水揚げを記録した。

 そういえば結婚前、2人がまだ遠距離恋愛中だったころも、広島県にいた加奈子さんが正蔵さんに会いに南相馬を訪れると平安丸はきまって大漁だった。「カナはきっと、船の神様と友達になれたんだべな」と正蔵さんは思っている。(仲田萌重子)

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1572789 0 いまここから 2020/10/21 05:00:00 2020/10/21 05:00:00 2020/10/21 05:00:00 漁から戻り水揚げ作業をする平さん夫婦。会話はなくあうんの呼吸で動く(午前10時11分、南相馬市鹿島区の真野川漁港で)=仲田萌重子撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201023-OYTAI50012-T.jpg?type=thumbnail

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