[南相馬市 10月] 鹿島の梨 増す存在感
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完熟梨をまるごと搾って瓶詰めした南相馬市鹿島区の特産ジュースが、今年も常磐道のサービスエリアに並ぶ季節になった。
鹿島が100年前から梨の産地だったことは意外と知られていない。これに着目してジュース作りを手がけた鹿島商工会の鈴木秀明さん(47)は会津若松市の出身だ。県商工会連合会(福島市)から派遣され、05年に赴任した。
以来よく耳にしたのは、「鹿島はこれといった特徴がなく、目立たない」という地元の嘆きだった。原町市や小高町と合併したのは06年。震災後はますます存在感が薄まっている、という声も聞こえてきた。
鹿島の梨の加工品でアピールするのはどうだろう、と鈴木さんは提案した。ジュースなら日持ちがして全国で売り歩けるし、客も気軽に手に取れるのではないか。梨農家の若手ではリーダー的存在だった但野喜直さん(50)に話を持ちかけた。

梨は果汁にすると香りが弱く、通常は香料を加える。「果汁100%を売りにしたい」と訴える鈴木さんに、「おいしくなるのだろうか」と但野さんは半信半疑だったが、「まあ乗るだけ乗ってみっか」と取れたばかりの梨を提供した。
届いた試作品は衝撃だった。味が凝縮され、糖度や香りが増している。「梨じゃないみたいだ」と但野さんは思った。ジュースは、その年の梨の出来によって色も味わいも変わる。6年目となる今季の生産は1400本。とりわけ甘みが引き立つ味に仕上がった。
気になることもある。東京などのイベントで「福島って大変ね。頑張って」と言いつつ、商品を手に取ってくれない客がいる。どこかよそごとのような言葉の響き。見えない壁に触れたようで、鈴木さんの心はざわつく。(柿井秀太郎)