[災後の福島で 第7部] ふるさと教育(6) 伝統継承 復興を担う
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地域芸能
■川俣
原発事故によって住民同士のつながりが希薄になった自治体では、地域の芸能が古里を学ぶ格好の場になる例がある。
「こうやって腰を落として」「ここですぐ振り返る」
2018年秋、川俣町の公民館で三匹獅子舞の練習が行われた。教わったのは町立山木屋小6年の男児3人。身ぶり手ぶりの保存会メンバーの指導が熱を帯びるのは理由があった。
山木屋の三匹獅子舞は江戸時代から続く芸能で、神社の秋の例大祭で奉納される。獅子は小中学生が踊る習わしだったが、地区に避難指示が出され、伝承も中断された。保存会は避難先などで活動を再開したが、子どもを集められず、踊り手は大人が務めた。
復活の機運が高まったのは17年。同校の依頼を受け、保存会が授業で過去の映像を見せ、踊り方を教えた。これがきっかけで翌年、子どもによる8年ぶりの地元奉納に結実する。
跳ねる、しゃがむ、頭を振る。獅子舞の動きは激しく、3人が別々の動きをする場面も多い。「あそこまで複雑だとは思わなかった」と菅野陽向君(13)は語る。
保存会の人たちは「宿」の仕組みも教えてくれた。集落持ち回りで道具管理などを担い、宿に選ばれた家の庭で練習する。様子を近所の人が見に来る。原発事故で、そんなアットホームな練習風景も消失してしまったことを3人は知った。
その年の例大祭。多くの山木屋の住民が足を運び、「やっぱり子どもの踊りは元気がもらえる」と声がかかった。今も町の中心部で暮らす菅野君は「これで自分も山木屋の一員になれた」と感じたという。
■楢葉
創作太鼓を披露する楢葉町の和太鼓グループ「ならは天神太鼓うしお会」には、10歳代から80歳代までの約30人が在籍する。
小学生は2人。楢葉小5年の木村美来さん(10)は地元フェスティバルの演奏を聞き、かっこよさに憧れて加入した。「周りは大人ばかりだけど、太鼓が好きだし、みんなで協力しながら曲を作るのは楽しい」
異世代団結 交流生まれ
毎週日曜の練習を通して幅広い世代の顔ぶれが意見を交わし、同じ目標をめざす。図らずも会が果たしているのは、本来は地域が担っていた役割だ。「私にとって、うしお会は太鼓を通じてコミュニケーションを学ぶ場です」。中学3年から参加し、今はコーチを務める牧ノ原沙友里さん(33)は言う。
うしお会は現在、震災をテーマにした新曲のアイデアを練っている。当時まだ0歳だった木村さんも加わって、3月の演奏会で町民に披露する予定だ。(井上大輔、成海航太)