「アイ・ティー・ケー」(羽島市)社長 岩田真太郎さん 39
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◆手の動きにより近く
ロンドンで昨年11月に開かれた日本文化発信イベント「ハイパージャパン」。ラグビーの日本対イングランド戦のパブリックビューイングが行われる会場で、遠隔操作により、人の腕の動きと同じ動作をする人型ロボットハンド「ハンドロイド」が、ミニラグビーボールを約3メートル先にパスした。来場者が受け取ると、会場から盛んな拍手が送られた。
これで出展は8回目。改良を重ねたハンドロイドに向けられた称賛に、確かな手応えを感じていた。「労働者数が減少し、ロボットが重要な役割を果たす社会の到来は、既に見えている。海外からも必要とされるようなロボットハンドメーカーを目指したい」と、将来を見据えている。
生業は金属の切削加工。ロボット開発を行うとは思ってもみなかった。
2008年秋、加工技術を高く評価した東大研究室から、「義手の開発を手伝ってほしい」という趣旨のメールが入った。好奇心から東大に出向いたのが転機になった。
筋肉が発する微弱な電気信号を感知し、様々な動きをする義手に衝撃を受けた。夢中で設計図を描き、試作品をいくつも作った。専門は機械工学。ロボットの知識はゼロに近かった。
11年2月、今度は東京のテレビ局から、SFドラマで動く義手の撮影をしたいとの電話が入った。ところがコントローラーの貸し出しを研究室から断られ、地元の制御システム開発会社の社長に指導を受けながら、自ら製作。何とか撮影を終えたが、放送当日に東日本大震災が発生、中止になってしまった。
そんな頃だった。ロンドンからハイパージャパン参加を要請するメールが届いた。
「原発の災害を知り、危険な現場や宇宙など極限の環境で、遠隔操作で思いのまま操れるロボットハンドが発表できれば」と参加を決意。より直感的に操作できる手袋型のコントローラーを新たに開発した。軽量で滑らかな動きを実現するため、ロボット材料としては異例の樹脂で指を作ったハンドロイドは、会場で注目を浴びた。
初期は指しか動かなかったが、手首やひじ、肩など関節を増やし、より人間の手の動きに近づいてきた。
同時に、皮膚の動きをセンサーが感知し、指の開閉動作を行う電動義手の開発も岐阜高専の研究チームとともに進め、現在は湘南工科大(神奈川県藤沢市)で実用化に向けての研究が進められている。
「ものづくりの可能性は無限。自分が描いたものを自由に創り出すことができる今の仕事は、何より楽しい」
近い将来、身近な存在になるかもしれないハンドロイドの開発を、着実に前に進めたいと考えている。(宮崎亨)
◇羽島市出身。親会社の精密部品製造「岩田鉄工所」(羽島市)の専務を兼ね、自社開発した電動伸縮