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    〈1〉外資買収から水源地守る

    嬬恋、条例を厳格化

    ■「狙いは水だ」 黄緑色のキャベツ畑が丘陵一面に広がる嬬恋村鎌原。せせらぎが涼しげな小川の向こうで、こんもりとした雑木林の深緑色がひときわ目立つ。

    • シンガポールの個人が取得した雑木林(嬬恋村鎌原で)
      シンガポールの個人が取得した雑木林(嬬恋村鎌原で)

     2011年秋、嬬恋村長の熊川栄さん(65)は、村長室で決裁業務中、見慣れぬ形式の書類を手にした。この雑木林約44ヘクタールの売買契約に関する書類だった。売り主は東京都内の仲介業者、買い主はシンガポール在住。型通りではない手書きの文面に特約条項が盛り込まれていた。

     〈湧水する水の湧水量の4分の1の使用〉

     特約条項は、湧き水の使用を求める地役権の設定だった。「狙いは水だ。ただごとではないぞ」

     外国人による森林買収は06年ごろから長野や北海道など全国で顕在化していた。熊川さんがピンと来たのは、北毛地域で森林を買い求める外国人のうわさを自身も複数聞いていたからだ。すぐに職員を村長室に集めて情報収集を指示し、雑木林はキャンプ場として開発される可能性のあることが判明した。

    ■外資排斥ではない 嬬恋村から相談を受けた県も外国人による森林買収の確認は初めてだった。だが、「沼田市と利根郡の町村が11年1月に国に法規制の要望書を出すなど、嬬恋以外でも外資買収の懸念は広がっていた」(県林政課)。県は11年10月に現地を調査し、翌12年6月には森林売買を監視する条例を制定した。埼玉、北海道に続き都道府県で3番目のスピード制定だった。

     条例策定は他の都道府県でも続き、5月現在で11道県が制定、罰則として5万円以下の過料を科す県も現れた。政府は昨年4月に森林法を改正し、取得後の届け出義務の対象外だった1ヘクタール未満の森林にも義務を課した。

     強まる監視網と反比例し、外資の森林買収は減少。林野庁によると、11年に全国で157ヘクタールに上った外資の森林買収は昨年、約16ヘクタールにまで落ち込んだ。

     ただ、外資の投資は地域活性化につながる面もある。監視強化で正当な投資意欲がそがれることを懸念する声も出ている。

     嬬恋村は12年2月、県に先立って村開発条例を改正し、湧き水や地下水を採取する場合、近隣の同意を得ることを義務付けた。熊川さんは、「県よりもさらに厳しい内容」と評するが、その意図は外資の排斥ではないと強調する。

     「条例はあくまで水資源、自然環境を守るため適正な使い方をしてもらうのが目的だ」

    ■乱開発防止へ先手 嬬恋村で起きた外国人による森林買収の影響は、他の自治体にも及んだ。

    • 神流川で水遊びをする子どもたち(神流町万場で)
      神流川で水遊びをする子どもたち(神流町万場で)

     底まで透き通る神流川で水遊びをする子どもの笑い声が渓谷に響き渡る。神流町万場の河川敷は、3年前から「神流の涼」として町の観光スポットとなっている。

     町は12年7月、河川敷から約500メートル上ったゴルフ場跡地約66ヘクタールを約1億2000万円で購入した。町の一般会計当初予算の約5%に相当する額だ。購入時に利用計画はなく、除草など取得後の維持費もかかる。いわば、「取得ありき」の購入だった。

     「ゴルフ場は6年前の閉鎖後に放置され、町の懸念材料だった」。町総務課参事の新井昇さん(57)が、購入の経緯を解説する。敷地に産業廃棄物処理施設が建ち、両側にある沢から神流川へ危険物質が流れ出す――。それが、町の最も懸念するシナリオだった。実際、近隣の下仁田町のゴルフ場予定地で産廃施設建設計画が浮上、解決のため町は06年、4億6000万円もの巨費を費やして予定地を購入した。雑草で荒れた敷地が大雨で崩落する恐れもあったという。

    • 神流町が取得したゴルフ場跡地(神流町で)
      神流町が取得したゴルフ場跡地(神流町で)

     神流町の背中を押したのは、嬬恋の森林買収だった。「町長は嬬恋の件を気にしていた」と新井さん。町には「外国人に町の政策と合わない開発をされると困る」との思いがあった。

     ゴルフ場跡地はその後、都内の企業が2・3ヘクタールを太陽光発電所として利用することになった。残りの利用方法は未定だ。新井さんは「関東一の清流である神流川は、町の最大の資源だ。町がこの川を守っていく」と言葉に力を込めた。

    2013年08月28日 01時10分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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