読売新聞オンライン

メニュー

(2)寄り添う指導で成長 未体験の「寒さ」、生活気遣う

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

クティヤン・マイケル選手(左)を指導する山岸さん(17日、前橋市で)
クティヤン・マイケル選手(左)を指導する山岸さん(17日、前橋市で)
ボランティアで通訳を務める松村さん
ボランティアで通訳を務める松村さん

 最初の関門は、真冬の寒さだった。初めて体感する低気温と空っ風に、南スーダンの選手たちは厚手のジャンパーを着ても凍えていた。母国の年間平均気温は28度前後で、20度を下回ることはほとんどない。この時期、王山運動場がある前橋市は4度ほどで「これでは練習にならない。何とかしなければ」。コーチの山岸正範さん(44)(前橋市)は、暖房の利いた小屋へ頻繁に入ることなどを指示し、選手が体を冷やさないように気遣った。

 2019年11月に来日した選手団のコーチとして、白羽の矢が立った山岸さんは選手時代、陸上の日本選手権400メートル5位、国体400メートル障害5位の実力者。地元企業に勤務しながら、小中学生を指導していたところ、前橋市陸上競技協会から要請を受けた。「不安しかない。だが、頼ってくれるならば、一から寄り添いたい――」

 山岸さんは成人への指導経験がなかった。習慣や文化が異なり、言葉も通じない外国人選手との接し方に戸惑いが多かった。それでも身ぶり手ぶりを交えて、弱点に見えた上半身や体幹を鍛えるためのウェートトレーニング、フォームの改善は何度も手本を見せて、目的を根気よく伝えた。

 選手たちも山岸さんの熱意に打たれた。1年7か月を経て、互いの理解は深まった。指導を受ける4人全員が、来日後に自己ベストを記録した。受け身だった選手たちが寒さも乗り越えて、練習方法や技術の改善策を提案してくるようになり、成長も感じられる。山岸さんは「自主性も出てきた。本番での自己ベスト更新につながる」と手応えをつかむ。

 山岸さんの指導をサポートする欠かせない存在がいる。10人ほどの通訳ボランティアだ。タイム計測、フォームの撮影も担当する。

 かつて建設技術を伝える青年海外協力隊員としてケニアに赴任していた松村文雄さん(72)(前橋市)には、スポーツの国際大会で通訳経験もあるとして市が依頼した。

 南スーダンの公用語である英語、選手らになじみのあるアラビア語、スワヒリ語も使う。選手が好きな薄焼きパン「チャパティ」やアフリカでよく食べられるというヒマワリの種を貧血対策として差し入れし、選手を励ます。練習の合間を縫い、温泉や花の観賞に付き合うこともあり、選手からはスワヒリ語で長老を意味する「ムゼー」と親しまれる。松村さんは「もう家族のような関係。彼らが胸を張って母国へ帰れるように力になりたい」と言う。

 支援の輪は広がり、育英大(高崎市)の学生らが練習相手となったり、大会で知り合ったリオデジャネイロパラ陸上男子400メートルリレー銅メダリストの多川知希選手(35)が助言をくれたりする。グエム・アブラハム選手(22)は「コーチや通訳は家族のように支えてくれて感謝している。五輪では必ず自己ベストを更新したい」と力強い。

 ◆南スーダン 2011年7月、住民投票の結果、スーダンから独立。かつての内戦などの影響で、練習に適した環境がないため、南スーダンは国際協力機構(JICA)を通じ、前橋市に選手団の受け入れを依頼。市はふるさと納税の寄付金などをもとに、支援を続けている。選手らは大会後に帰国する予定。

無断転載・複製を禁じます
2151188 0 ともに東京へ 2021/06/24 05:00:00 2021/06/24 23:08:03 2021/06/24 23:08:03 南スーダン選手の走りを見守る山岸さん(右)(17日午後2時49分、前橋市の王山運動場で)=黒羽泰典撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210624-OYTAI50005-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)