<2>病院・介護に通訳必要
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◇養成研修 2世や留学生参加
広島市中区の市中央公民館では毎週日曜、高齢の中国残留邦人向けに、介護予防講座が開かれている。音楽に合わせて簡単な体操をしたり、日常生活での注意点を説明したりする。
「高い方が134。今日も調子いいですね」
松山鷹一さん(52)(広島市中区)は、参加者たちの血圧を測り終えるとにこりと笑った。70歳代の母が中国残留邦人で、「同じ境遇の残留邦人や家族の力になりたい」と講座を手伝っている。
戦後72年。高齢化が進む残留邦人たちの介護や病気への対応が課題になりつつある。
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松山さんの家族は、開拓団として満州(現中国東北部)に入植した。終戦に伴う混乱の中、母親は知り合いの中国人に預けられ、そのまま育てられた。その地で中国人と結婚し、松山さんが生まれた。
1990年代、両親に続き、医師だった松山さんも広島に来た。日本語がほとんど話せない両親のため、病院に行く際に通訳として付き添うほか、講座では参加者らに健康維持のアドバイスもする。
「僕が少しずつでも出来ることをやれば安心ですよね。みんな似た悩みを抱えているんですから」
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残留邦人を対象に、国が2015年度に実施した実態調査では、「定期的に通院または往診による診療を受けている」が74・2%、「要介護(要支援)認定を受けている」は25・8%を占めた。病院・介護サービスを利用する際、通訳を「必要としている」「時々必要とする場合がある」は53・5%。専門用語が多い現場で、意思疎通の難しさが浮き彫りになった。
組織レベルで言葉の壁をなくそうと、ひろしま国際センター(広島市中区)は今年度、医療従事者と患者双方の通訳を担う「医療通訳者」の養成に乗り出した。通訳者を育て、協定を結んだ医療機関からの要請で同センターから派遣するシステムで、県と市の協力を得ながら4月からの運用を目指している。
研修には、留学生や残留邦人2世ら約10人が参加。病気の知識や専門用語を学び、医療現場で想定される会話の訓練をこなす。
広州出身で、12年前に日本に来た廿日市市相談員の陳琳さん(36)は「来日して間もない頃、体調が悪くてもコミュニケーションが取れずつらかった。患者の負担を減らしたい」と意気込んでいる。
◇「話せる」職員 県内5事業所
介護職の人材は全国で不足しており、その中で中国語が話せる職員を持つ施設はほとんどない。厚生労働省が昨年9月にまとめた調査では、県内で中国語が話せるスタッフを抱える介護事業所は広島、福山、東広島の3市にある計5か所のみ。
広島市安佐南区の「トラパンダ居宅介護支援事業所」は、昨年から中国語による介護支援を始めた。中国残留邦人と家族の35人前後が利用しており、「生活コミュニティーが限られている方が多い。介護に限らず、日常生活で人々が話し相手になるなど、地域全体で見守っていく環境作りが大事」と指摘する。