<10>野球指導「負けて学ぶ」

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チームを改革し広陵を強豪校へと育てた中井哲之さん(広島市安佐南区で)=野本裕人撮影
チームを改革し広陵を強豪校へと育てた中井哲之さん(広島市安佐南区で)=野本裕人撮影
第89回全国高校野球選手権大会決勝 広陵―佐賀北 8回佐賀北1死満塁、際どいコースをつくもボールと判定され、押し出しで1点を与えてしまった広陵の野村投手(右は小林捕手)=2007年8月22日
第89回全国高校野球選手権大会決勝 広陵―佐賀北 8回佐賀北1死満塁、際どいコースをつくもボールと判定され、押し出しで1点を与えてしまった広陵の野村投手(右は小林捕手)=2007年8月22日

 「しっかり走れよ」。肌寒い冬の風が吹く4日の早朝、広島市北部の山あいにある広陵高校の野球部グラウンド(広島市安佐南区)。今年初練習となるこの日、約120人の部員が走り込む傍らで、監督の中井哲之さん(56)のげきが飛んだ。

 同校出身で、指導歴は30年を超える。「礼を重んじ、野球人である前に人であること」。自身が体験したいびつな上下関係や体罰、根性論など「昭和」野球との決別を掲げ、1991年(平成3年)、監督就任2年目で選抜高校野球大会優勝。2017年などに夏の大会で準優勝するなど「名将」として全国に名をとどろかせるが、「主役は選手、監督は脇役」と謙遜する。

 指導者として駆け抜けた平成。忘れられない夏がある。

 2007年(平成19年)8月22日、甲子園決勝、佐賀北高戦。試合序盤から得点を重ね、4―0とリードして迎えた八回裏、佐賀北の攻撃。1アウト満塁、カウントは3ボール1ストライク。マウンドの野村祐輔投手(現広島カープ)が投じた1球は、ど真ん中にかまえた小林誠司捕手(現巨人)のミットに吸い込まれたかに見えた。

 判定は「ボール」、押し出し。

 あぜんとする野村投手はベンチに2度視線を向け、小林捕手はミットを地面にたたきつけた。普段は感情をむき出しにすることのない2人の姿に、「ストライクに違いないと確信した」。

 佐賀北に傾いた流れを止めることはできなかった。次の打者に投じた3球目は、金属バットの快音とともに大きな孤を描いて外野スタンドに飛び込んだ。逆転満塁ホームラン。4―5。勝利目前で優勝がするりとこぼれ落ちた。

 試合後、記者団に審判への怒りをぶつけた。「どこに投げたらストライクなんですか。命がけでやってきた選手がかわいそう」

 選手には常日頃、「審判が絶対。判定に首をかしげたり不満そうな態度をとったりするな」と口酸っぱく言ってきたが、自身が一線を越えた。

 「選手がベンチに戻ってきたとき、『先生、たまりません』と訴えかけたんです。彼らに批判をさせてはいけないと思って……。監督を辞める覚悟でした」。スポーツ紙やテレビで大きく取り上げられた。同情する声もあったが、高野連から厳重注意を受けた。

 決勝戦から11年半。野球をとりまく環境は変わった。少子化などで野球人口は減り、地上波のプロ野球中継も激減。選手の負担軽減策として、タイブレイクの導入や投球制限が検討されるなど、高校野球そのものも変わりつつある。

 この冬、広陵高のグラウンドには多くのOBが駆けつけた。野村投手もその一人。「行き詰まった時、中井先生に活を入れてもらいにいきます。広陵高野球部は僕の原点ですから」。中井さんもかつて練習していたグラウンドに立つと、思い出が走馬灯のようによみがえるという。

 あの試合映像は、毎年、現役部員と一緒に見ることが恒例となった。今でも「どうすべきだったのか」と自問自答するが、選手たちには「負けて学ぶものがある」と伝えている。「結果も大切です。でも、それ以上に野球から学ぶものがあると信じています」(伏山隼平、おわり)

 

 ◇愛されるチームを 中井哲之さん

 平成は、選手たちと一緒に、全国優勝という大きな目標に向かった時代です。私が選手だった頃は、日本のプロ野球を目指したものですが、今では大リーグ挑戦も当たり前になりました。野球人口は減少の一途をたどっていますが、子供たちが一生懸命に白球を追いかける姿は、今も昔も変わりはありません。これからも、地域の方々から、心から応援してもらえるようなチームをつくっていこうと思っています。

 

 ◇広陵高校

 野球部は1911年創部。73年に現在の野球部専用グラウンドができた。甲子園には、春、夏ともに23回出場。春は26年と91年、2003年に優勝した。準優勝は春3回、夏4回。

 OBには、金本知憲(前阪神監督)、二岡智宏(元巨人)、中村奨成(広島)らがいる。

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19595 0 平成のA面B面 2019/01/14 05:00:00 2019/01/21 13:31:03 チームを改革し強豪校へと育てた中井哲之監督(27日、広陵高校で)=野本裕人撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190113-OYTAI50001-T.jpg?type=thumbnail

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