「音の商社」 地方で輝く

〈4〉クリプトン・フューチャー・メディア 伊藤博之 代表取締役

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※沼田光太郎撮影
※沼田光太郎撮影

 毎年、「さっぽろ雪まつり」に合わせて行われる、「雪ミク(初音ミク)」が冬の北海道を応援するフェスティバル「SNOW MIKU」が今年10年目を迎えます。世界的なキャラクターに成長した初音ミクを開発・企画したクリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之代表取締役(53)に、開発の経緯や北海道の未来像などについて聞きました。(聞き手 読売新聞北海道支社長 西嶌一泰)

 ◆広がる「ミク」

 支社長 いろいろな音を仕入れて提供する「音の商社」から生まれた「初音ミク」が爆発的に広がりました。

 伊藤 会社設立から20年以上になります。2007年に登場した初音ミクが、一般にも広がったのは、歌声合成ソフトウェアにキャラクターを付けたことと、動画系サイトが浸透する時期に重なったことがあると思います。

 支社長 従来のビジネス感覚とは異なり、初音ミクの権利関係はオープンですね。

 伊藤 初音ミクは、要は歌声を奏でる「楽器」という認識です。ギターを弾いて楽しむように、個人が楽しむ分には、楽器としての初音ミクの声は自由に使える。それと一緒に、ビジュアルも楽しんでもらえるようにしました。

 支社長 初音ミクは声優の藤田咲さんの声が基になっているそうですが、どのように作ったのですか。

 伊藤 母音と子音のコンビネーションの表をひたすら読んでもらい、それをデータベース化して、完成させました。初音ミクを購入したお客さんが、パソコンの専用画面で歌詞とメロディーを入力して、再生ボタンを押すと、その通りに歌ってくれるわけです。バージョンアップするたびに藤田さんに発音してもらい、現在のもので3代目。これまで計十数万本売れました。

 支社長 初音ミクがステージ上で歌って踊る「マジカルミライ」のコンサートをテレビで見て、「こんな世界があるのか」と驚きました。

 伊藤 初音ミクのゲームで使われた3D映像のデータをコンピューターの外に出したらコンサートができると思いついて始めてから、間もなく10年になります。当初は実験的なゲームのプロモーションだったので、あんなにお客さんが集まる事業になるとは思いませんでした。「実物が降臨する姿を一目見たい」と、今では世界中からファンが集まります。

 ◆早くから起業

 支社長 音を仕事にするきっかけは何だったのですか。

 伊藤 コンピューターで演奏する電子楽器が出てきた1980年代後半から、自分も趣味で電子楽器を買って、アマチュアとして楽曲を作っていました。仕事の方は、国家公務員試験を受けて文部省の事務官になり、「コンピューターを使う仕事ができるから」くらいの気持ちで、北海道大学の研究室に応募し、そこの職員になりました。

 支社長 当時からパソコンを使っていたのですか。

 伊藤 まだ一般家庭にはあまり普及していない頃でしたが、大学にはありました。80年代後半には大学にインターネット回線が開通して、ネットに触れたのも人より早かったと思います。

 支社長 今の仕事には、どうつながったのですか。

 伊藤 ユーロビートやクラブミュージックに使われるような音の材料を作ってCDに入れ、コンピューターで曲を作る人たちに向けて海外の雑誌に広告を出して販売していました。あまり売れませんでしたが、世界中の人々とつながりができました。そのうち「日本で売ってほしい」という依頼が来るようになり、それがそこそこ売れたので、「これはビジネスになりそうだ」と一人で起業しました。

 支社長 結構、思い切ったのではないですか。

 伊藤 音源は、プロからアマチュアまで幅広く買ってくれました。当時は起業する人が少なく、私も堅い仕事をしていたので、ベンチャーなんて不思議に思われたかもしれません。迷いはありましたが、「一回きりの人生だから後悔はしたくない」と踏み切りました。

 ◆札幌を拠点に

 支社長 札幌で仕事を続けているのは、何かこだわりがあるのですか。

 伊藤 インターネットを使えば地方にいるハンディキャップは克服できますからね。最初の頃は自分でサーバーを立てて、プログラミングもしたので、ネットに強くなりました。営業は出張すればいいし、海外とのミーティングは頻繁にありますが、スカイプ(インターネット電話)を利用します。ネット環境が充実してきたので、特定の場所に固定されずに仕事をするのが普通になりつつあります。

 支社長 地方の魅力を増す妙案はありますか。

 伊藤 例えばジャガイモも加工して価値を高めて出荷すればビジネスになる。「付加価値を付ける」というのは、すなわちクリエイターの仕事なんです。クリエイターというと東京の仕事と思われがちですが、地方にこそ必要だし、地方の方が断然、収益性も高く、注目される。でも、まだまだ地方は「クリエイターって何ですか?」という認識。それを変えたいですね。

 支社長 さっぽろ雪まつりで、「雪ミク」がまた大活躍してくれるようですね。

 伊藤 雪ミクは2010年に誕生して、今年で10年目。初音ミクは音楽やイラストを通してクリエイターのひとつのシンボルとして世界的に知られていますが、雪ミクはその北海道バージョンです。70年前には単なる雪捨て場だった大通公園で、市民が雪像を作ったことから雪まつりが地元の祭りとして定着したように、札幌とか北海道には市民が作り手になるという気概があり、作り手が発信するという点で初音ミクとも共通点があります。自ら参加して表現したり、創り出したりする楽しさや素晴らしさに気付くきっかけになるといいですね。

 【いとう・ひろゆき】 標茶町生まれ。北海学園大学卒。北海道大学文部事務官を経て、1995年、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社を設立し、代表取締役に就任。北海道情報大学客員教授、京都情報大学院大学教授。2013年、藍綬褒章。

 【クリプトン・フューチャー・メディア】 1995年設立。音楽制作ソフトの開発・配信、「初音ミク」などキャラクターに関する国内外のライセンス事業、地域を応援するプロジェクトの企画・運営などを手がける。本社・札幌市。従業員は約100人。

「初音ミク」について語る伊藤代表取締役(右)と西嶌支社長
「初音ミク」について語る伊藤代表取締役(右)と西嶌支社長

 【対談を終えて】 ライブイベント若者に刺激

 無数のペンライトが揺れる。よくあるコンサートの光景。ただ、ステージで生バンドを背に歌い、踊るのは生身の人物ではない。立体映像のキャラクター「初音ミク」だ。

 そんなライブを中心にしたイベントを昨年は東京と大阪の2会場で開催、計4万人以上を集めた。海外でもニューヨークやパリ、北京など、これまでに26都市で59公演を行った。

 「仕掛け人」の伊藤さんは勤め先で覚えたコンピューターと趣味の音楽を生かし、声や物音、楽器など様々な音をやり取りするクリプトン社をつくった。今は3000万件の音源などを扱う世界最大級の「音の商社」だ。初音ミクは声優の声を音源にしたソフトウェア。詞とメロディーを入力し、歌わせる。キャラクターは、非営利など一定のルールを守れば、個人が自由に使えることもあって人気が広がった。

 起業して24年、初音ミク誕生から12年になるが、拠点は札幌のまま。取引先と離れているから、インターネットを巧みに生かせた面もある。札幌には早くからIT系の企業や人材が集ってもいた。「東京なら、とは必ずしも思わない。刺激やビジネスチャンスはそれぞれの地にある」という。

 初音ミクの「生家」の同社には修学旅行生も訪れる。初音ミクやイベントに刺激され、自分も何か学びたいとか、つくりたいと思う若い人が増えればいいと、伊藤さんは考えている。

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415321 0 支社長対談 2019/01/30 05:00:00 2019/01/30 05:00:00 2019/01/30 05:00:00 「初音ミク」生みの親の伊藤博之クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役(12月25日、札幌市中央区で)=沼田光太郎撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190130-OYTAI50006-T.jpg?type=thumbnail

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