防犯映像つなぎ立証
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ドラレコ未載車 あおり被害
昨年6月の道路交通法改正で「あおり運転罪」が新設され、全国で摘発が相次いでいる。自動車に搭載されたドライブレコーダー映像が証拠となるケースがほとんどだが、県警が摘発した昨年10月の事件は、被害者の車にレコーダーはなかった。捜査員が点と点の証拠をつないだ「執念の立証」だった。(鈴木彪将)

神戸市長田区の飲食店や民家が立ち並ぶ片側一車線の市道。近くに住む40歳代男性は、軽トラックで仕事場に向かっていた。見通しのよい直線にさしかかった時だった。背後から1台の軽乗用車がクラクションを鳴らしながら猛スピードで迫ってきた。
「危ない」。男性は衝突すれすれまで接近してきた軽乗用車から逃げようと、反対車線にUターンしたが、
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翌日、男性から被害相談を受けた長田署員は頭を悩ませていた。
あおり運転の立証には、ドライブレコーダーの映像が有効とされているが、男性の車は未搭載だった。この時点で目撃者はおらず、同署は捜査方針について協議を重ねた。
「定点カメラの映像をつなぎ合わせるしかない」。約10人の捜査員は現場の市道沿い約1キロを歩き、防犯カメラを設置している商店や飲食店などに映像の提供を求めた。
各店舗のカメラが2台の車の様子をとらえた映像はいずれも1秒足らず。それらを一コマ一コマつなぎ合わせた。結果は「軽トラックの背後を、軽乗用車が約40~50キロのスピードで詰め寄っている」。十分な証拠だった。当時、近くにいた目撃者も見つかり、「詰め寄る際にクラクションを鳴らしていた」との証言も得られた。
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事件から約20日後、県警は軽乗用車を運転していた男(52)を道交法違反(あおり運転)容疑で逮捕した。
男は同法違反のほかに公務執行妨害罪などでも起訴された。地裁での公判で、男はあおり運転に至る経緯を語った。「軽トラックが前方に割り込んできた。悪いのは相手で、謝らせようと思った」。だが、地裁は男の主張を認めず、懲役2年(求刑・懲役2年6月)の実刑判決を言い渡し、刑が確定した。
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ある捜査員は、防犯カメラの映像をつなぎ合わせた手法について、「挑戦だった」と振り返り、こう話した。「科学技術の進歩や情報社会の中で、証拠集めがたやすくなった側面はある。しかし、全てがそれで解決できるわけではない。現場を歩き、一つひとつ証拠を積み上げていく、原点に戻る大切さを今回の事件が教えてくれた。これからも、様々な手法を取り入れて事件解決につなげたい」