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但馬の英雄笑顔浮かぶ

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在りし日の植村直己さん。渋谷さんは今も、飾らぬ人柄に触れた出会いを忘れない(1978年9月)
在りし日の植村直己さん。渋谷さんは今も、飾らぬ人柄に触れた出会いを忘れない(1978年9月)
大切にしている植村さんの色紙を手にする渋谷さん(豊岡市日高町の自宅で)
大切にしている植村さんの色紙を手にする渋谷さん(豊岡市日高町の自宅で)
北極点への犬ぞり単独行に出る前の植村さん(1978年2月、カナダで)
北極点への犬ぞり単独行に出る前の植村さん(1978年2月、カナダで)
植村さんへの憧れから、若い頃に自転車でアジア各国を巡った渋谷さん(左)。インドでも人々の温かさに触れた=本人提供
植村さんへの憧れから、若い頃に自転車でアジア各国を巡った渋谷さん(左)。インドでも人々の温かさに触れた=本人提供

<植村直己さんのサイン色紙> 渋谷 義人さん(豊岡市)

スピリッツ 自転車旅行の支え

「北極点 グリーンランド 犬ぞり単独行」     そう記された色紙を、渋谷義人さん(60)はずっと大切にしてきました。ほんの短い時間、植村直己さんと触れ合った思い出が鮮やかによみがえります。

 「話し下手で、しゃべり方もたどたどしくてね。でも、あの木訥ぼくとつさに味があって……」。同じ日高町(現豊岡市)出身の世界的冒険家について語り始めると、口調が熱を帯びます。

 養父市の県立八鹿高校で校長を務める渋谷さんは、若い頃にひとり、アジア各国を自転車で巡りました。その経験をまとめた短歌集を出版し、今年の元日付朝刊でも紹介しました。

 実は自転車旅行のきっかけをくれた人こそ、植村さんだったのです。

 豊岡市民会館であった講演会へと渋谷さんが足を運んだのは、1978年9月23日のこと。その年、犬ぞりによる単独での北極点到達を、世界で初めて成し遂げた「但馬の英雄」の凱旋がいせんでした。

 渋谷さんは当時、植村さんの母校である県立豊岡高校の3年生。青春真っ盛りなのに、思いがけない骨折が重なるなどして、「投げやりな日々を送っていました」。自分と対極にある人への興味から、思い切って控室へ飛び込んだのです。

 やり取りはひと言、ふた言。「豊高とよこう生ですか」だったか、「高校生ですか」だったか。緊張のあまり、質問に「ハイ」と答えたことしか思い出せませんが、優しさに包み込まれるようなぬくもりが残りました。

 差し出した色紙に、快くペンを走らせてくれました。世界的な偉業とのギャップに、不思議な魅力を感じました。「少しでも近づきたい」という思いに駆られ、渋谷さんはランニングや水泳でがむしゃらに体を鍛え始めました。

 インド、中国、タイ、ミャンマー……。教師となって数年後、アジアの旅に出始めた渋谷さんですが、行く先々でトラブルばかり。危険地帯では死も覚悟し、何度も熱発や下痢、パンクに泣きました。

 そんな時、決まって自問自答しました。「植村さんなら、どうしただろう」。偉大な背中を追うつもりでこぎ出した、単独行です。道に迷うこともありましたが、「自分を信じて出した答えに、間違いはない」と考えるようになりました。その経験は、人生の支えになっています。

 教え子らに伝えてきたつもりです。本当の冒険でなくてもいい。何事にも挑戦し、諦めず夢を追ってほしい――と。自ら学んだ「植村スピリッツ」です。

 北米最高峰のマッキンリー(現名称・デナリ)で消息を絶った植村さん。最後の無線交信を残したのは、37年前の2月13日でした。

 その日が今年も巡ってきました。色紙を手に取って見つめる度に、渋谷さんは思い出します。はにかんだような、英雄の笑顔を。

(小坂渉)

 誰にもきっと、大切にしている物があるはずです。先行きの見通せない今、それらがよみがえらせてくれる思い出は、心の道しるべとなるのではないでしょうか。但馬や丹波に生きる人たちの「宝物」を、紹介していきます。(随時掲載)

 読者の皆さんも、ご自身が大切にしている物を教えてください。「私の宝物」係と明記し、豊岡支局にメール(toyooka@yomiuri.com)やファクス(0796・22・6202)、手紙でお寄せください。

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1840009 0 私の宝物 2021/02/13 05:00:00 2021/02/13 05:00:00 2021/02/13 05:00:00 板橋区は、世界初の五大陸最高峰登頂を達成した冒険家・植村直己さん(1941~84年)の功績を伝える植村冒険館(板橋区蓮根)について、老朽化が進んでいるなどとしてクラウドファンディング(CF)で資金を集めて移転することを決めた。1978年9月撮影。1978年9月25日撮影。2019年6月18日朝刊都民版掲載。 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/02/20210213-OYTAI50008-T.jpg?type=thumbnail

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