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家族も街も 空襲で消えた

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姫路に投下された焼夷弾

姫路空襲で投下された焼夷弾を手に体験を語る黒田さん(8月3日、姫路市で)
姫路空襲で投下された焼夷弾を手に体験を語る黒田さん(8月3日、姫路市で)

 「……これと同じ物が目の前に落ちてきた。戦争で一番怖かった瞬間です」

 姫路空襲を体験した黒田 権大ごんだい さん(92)(姫路市東延末)が8月3日、自宅を訪れた児童らに語りかけた。

 手に持った六角形の筒は鋼鉄製で直径約8センチ、長さ約50センチ。ゼリー状にしたガソリンなどを包んだ布袋が詰められ、重さは2・8キロほどだったとされる。

 日本の木造家屋を焼きつくすために米国が開発した「M69 焼夷しょうい 弾」だ。1945年7月3日の空襲では100機を超える爆撃機B29が姫路の空を覆いつくし、一晩で767トンに上る焼夷弾を投下した。

     ◇

 76年前のその日深夜、16歳だった黒田さんは自宅母屋で床に就いていた。町中にサイレンが響き渡り、驚いて外に出た。北の空がパッと明るくなった。

 「照明弾や!」

 母と離れへ急ぎ、祖父母に声をかけたが、足が不自由な祖母は「どこにおっても死ぬ時は死ぬ。あたいはここを動かん」の一点張りだ。「権大、おまえ一人で逃げぇ!」。母に促され、夢中で50メートルほど走って田んぼの水路にしゃがみ込んだ。

 空は、花火が上がったように赤く染まっていく。「シュシュシュシュシュ」。空気を切り裂くような音がした瞬間、目の前に焼夷弾が落ちてきた。

 「やばい、怖いっ!」。思わず顔を伏せた。弾は田んぼに突き刺さった。不発だった。周囲はあちこちに弾が刺さり、まるで焼夷弾の林のようになっていた。

 自宅へ飛んで帰ると隣家の火が燃え移っていた。母屋と離れは全焼。焼け跡から黒焦げになった祖母の遺体が見つかった。母と、その日不在だった父は無事だったが、大やけどを負った祖父は数日後に亡くなり、中国へ出征していた兄も野戦病院で死亡した。

     ◇

 「つらく、悲しい記憶。話したくない」

 戦後、高校の英語教員になったが、体験を自ら口にすることはなかった。

 しかし、旧制中学の恩師の勧めで姫路市戦災死没者遺族会に入り、恩師の遺言で60歳で会長に就いたことを機に、「語り部」活動を始めるようになった。初めは会長としての義務感だったが、じっと聴き入り、熱心に質問をする子どもたちの姿に「次の世代にしっかり伝えていかなければ」。義務感は、いつしか使命感に変わった。

 高齢化が進み、遺族会は10年ほど前に解散。中身が抜かれて空洞になった六角形の筒は空襲の証しとして、かつて市民が遺族会に寄贈した。解散後は、最後の会長となった黒田さんが保管し、子どもたちに語りかける時には必ず持参する。

 手にするたびに、死を覚悟した〈あの瞬間〉に引き戻される。赤く染まった空、焼け落ちていくわが家、真っ黒になって死んでいった祖母……。思い出したくない記憶が鮮やかによみがえり、胸がつぶれそうになる。

 それでも依頼を断ることはない。焼夷弾を手に、もう300回を超えた講演。おそるおそる弾に触る子どもたちを見つめつつ、いつも「戦争は人類最大の罪悪。二度と繰り返してはならない」と話を締めくくる。

 76年前に失っていたかもしれない命。平和への思いを語り、つなぐことが今は生きがいだ。「命ある限り、伝えていきたい」

(新良雅司)

<姫路空襲>  最初の爆撃は1945年6月22日午前9時46分から約50分間。58機のB29が飛来し、姫路市城東町にあった川西航空機姫路製作所を中心に376トンの爆弾を投下。341人が亡くなった。2度目の爆撃は7月3日午後11時50分から約1時間40分。107機が市街地全域に767トンの焼夷弾を投じ、173人が死亡した。総戸数の4割にあたる約1万戸が焼失し、甲子園球場約80個分にあたる約307万平方メートルが被災したとされる。

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2346968 0 物言わぬ 語り部たち 戦後76年 2021/09/07 05:00:00 2021/09/07 05:00:00 2021/09/07 05:00:00 黒田権大(3日午後0時16分、姫路市で)=新良雅司撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/09/20210907-OYTAI50005-T.jpg?type=thumbnail

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