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創業100年目奮闘 第一敷島湯 (尼崎市)
オオカミとヤギの友情を描いた人気の絵本「あらしのよるに」の朗読に、観客がくすりと笑ったり、ほろりとしたり。新型コロナウイルスの影響で一時中断していた“イベント会場”に昨年11月下旬、2年ぶりの笑顔が広がった。


そこは男湯の脱衣所。尼崎市で創業100年目となる銭湯「第一敷島湯」で開かれたボランティア団体の朗読会に常連客らが詰めかけた。3代目の黒木達也さん(57)は満足そうに見届けると、来場者に呼び掛けた。「お風呂を沸かしたので、ゆっくり温まってください」
1923年創業。戦後まもない46年に黒木さんの祖父が引き継いだ。商工業で発展した尼崎市の東の玄関口。阪神・杭瀬駅から徒歩7分。工場で働く人らが一日の疲れを癒やしてきた。黒木さんの母・功子さん(88)は「当時は風呂付きの家が少なく、家族連れも多かった。お客さんの子どもの着替えを手伝ったり、赤ちゃんの子守をしたりした」と懐かしむ。毎日のように通い続けて約50年の高田津多子さん(69)は、黒木さんの子どもの体を洗ってあげたことも。「家庭的な雰囲気で自分の家の風呂に入っている感じ。しばらく見かけない人がいると、どうしたのかなと心配になる」
県公衆浴場業生活衛生同業組合(神戸市)によると、家庭風呂の普及で、県内の銭湯は67年をピークに減少。第一敷島湯でも、最盛期は1日100人以上いた客が徐々に減り、コロナ禍で収入は3割減となった。「何回もやめよう、もう無理と思った」と
15年ほど前から経費削減のため、廃材を活用した
昔ながらの銭湯に見られる「
黒木さん夫妻は、古き良き銭湯の“ぬくもり”を知ってもらおうと、地元住民と一緒に脱衣所での落語会やお笑いライブなどを企画する。「サウナも電気風呂もないが、それがいいと言ってもらえる。何とか踏ん張り、お風呂好きな人とつながる場であり続けたい」と話す。(加藤あかね)