山里に笑顔芽吹け

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

丹波篠山で獣害対策NPO 鈴木 克哉さん・友美さん

 年の瀬に山あいの農村で餅つきの音が響いた。小学生らも歓声を上げて きね を振るう。ここは京都府境に近い丹波篠山市川阪。約40人が暮らすが、自治会によると「20歳以下の人口はゼロ」。餅つきに興じる子どもたちは、実は都市部からやってきた家族連れだった。

 餅つきの子どもらは西宮や明石から訪れていた。丹波篠山市を拠点に獣害対策に取り組むNPO法人「里地里山問題研究所(さともん)」が主宰し、米の栽培などを行う「川阪オープンフィールド」に参加していた。

 「さともん」は代表の鈴木克哉さん(46)(丹波篠山市)が2015年に設立した。

     ◇

 約170匹の野生ニホンザルが生息する丹波篠山市。鈴木さんは県森林動物研究センターの研究員や県立大の教員を務め、サルを追い払う方法や侵入防止の電気柵の使い方などを農村で伝授。しかし、ロケット花火で山に追いやってもまた里へ下りてくる。

 そこで発信器からの電波で群れの位置を探り、メールで農家に知らせるシステムを開発。被害は目に見えて減り、鈴木さんは、その熱意と誠実さで周囲の信頼を得るようになった。

 一方で〈限界〉も感じた。「獣害を減らすだけではなく、地元と力を合わせ、どんな地域をつくるか。行政側にいてはできない」。自然と暮らしを守る仕組みを作りたいと、仕事を辞してNPOをおこした。

     ◇

 そのころ、長女はまだ2歳。「これから子どもにお金がかかるのに……。本当に辞めるの?」。夫の言葉に妻の友美さん(37)は耳を疑った。夫婦で何度も話し合いを重ね、最後は夫の熱意に折れた。

 思えば、2人の〈なれそめ〉もサルだった。農学部の学生だった友美さんが青森・下北半島でニホンザルの調査に参加した際に、調査団のリーダーを務めていたのが鈴木さんだった。

 「さともん」発足から2年。友美さんにも転機が訪れた。市の旧認定こども園舎の活用計画に「さともん」が子育て支援の拠点施設を開設し、運営を担う中心スタッフになった。

 発端は友美さんのアイデア。育児中に親類も知人もおらず、孤立感を深めた体験から「子育て中のママに安らぎと交流の場を」という思いからだった。

 おしゃべり会やマルシェを企画し、育児に奮闘する親たちと時間を共有したことで、子育てへの関心が深まり、2人の娘を育てながら大学院に通うようになった。現在は農村での子育てネットワークをテーマに論文づくりに時間を忘れる毎日だ。

     ◇

 スタートから、5月で8年目を迎える「さともん」。獣害対策指導で京都や岡山にも出向く活動が認められ、鈴木さんは、元知事の名を冠にした「貝原俊民美しい兵庫づくり賞」にも選ばれた。

 大学院生のころ、サルによる被害調査で下北の農家の人にもらった野菜の新鮮さで農村の魅力を知った鈴木さん。一方で、丹精した作物が食い荒らされるつらさをつぶさに見たことが研究者としての原点になった。「川阪オープンフィールド」はそんな思いの結実だ。

 「さともん」がスタートした翌年、当時の自治会長に「獣害で荒廃している」という悩みを聞いたことをきっかけに、都会の人たちを招いて耕作放棄地で米栽培をしてもらうことを発案。子どもたちの歓声が消えた地域をよみがえらせ、その輪が広がってきたと実感している。

 夫妻が丹波篠山の地にまいた新しい種。やがて芽を吹き、春には田植えを楽しむ人たちの笑顔が山里にあふれるに違いない。(中野真一)

スクラップは会員限定です

使い方
「地域」の最新記事一覧
2649311 0 ウィズyou あなたとともに 2022/01/05 05:00:00 2022/01/05 05:00:00 2022/01/05 05:00:00

ピックアップ

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)