元 K―1刑事 熱血稽古
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谷本弘行・明石署2課長
格闘技イベント「K―1」に出場した経験がある元プロキックボクサーが明石署にいる。谷本弘行・刑事2課長(49)。選手を引退後は格闘技の指導で、子どもたちの健全育成に携わってきた。新型コロナウイルス禍で昨春から道場での指導ができない時期もあったが、「教え子や市民から憧れられる存在でありたい」とトレーニングを欠かさない。(近藤修史)
指導やレフェリー 「周囲を守る人材育てる」
■プロテスト合格
「拳をまっすぐ突きさす」
姫路市の総合格闘技の道場で昨秋、谷本さんは小中学生の突きや蹴りなどに目を光らせ、静かに励ました。同署で特殊詐欺などの捜査を指揮しており、当直勤務もある中、週2回は道場で約30人を指導している。
新型コロナの感染防止のため、昨年6月頃まで道場を使えない日々が続いたといい、指導を受けた小学4年、志水
谷本さんは高校時代に柔道で心身を鍛え、1989年に警察官となった。
機動隊所属だった93年、「市民は強い警察官を望んでいる」と思い立ち、蹴りや投げ技があるシュートボクシングのジムに入門。空手などの大会で優勝し、キックボクシングのプロテストにも合格した。
■二足のわらじ
公務員は兼業が禁じられているため、谷本さんは県警の許可を得て「二足のわらじ」を履き、無報酬で戦い続けた。
99年にはK―1に出場。当時の強豪選手と対戦したが、KO負けを喫した。実力者のピーター・アーツ選手と控室が隣り合い、「大きな体と迫力に圧倒された」ことが思い出に残っている。
練習中のけがをきっかけに2004年に引退。指導者に転じるとともに、最近はレフェリーとして、年10回ほど格闘技の聖地・後楽園ホール(東京)などのリングに上がる。警察官らしい公正なジャッジが評価され、ムエタイの世界タイトル戦を裁いた経験もある。
■不良を更生
本業では、暴走族の少年らとの出会いもあった。
「悪いやつがいるから面倒を見てほしい」と住民に頼まれ、やんちゃな子どもと向き合ってきた。
指導法に悩んだ時期もあったが、「自分より強い人間がいることを練習で伝える」ことが更生の近道だと実感してきた。
高砂市の会社員、内藤二朗さん(37)はそんな教え子の一人。
谷本さんの誘いで格闘技にのめり込み、キックボクシングのウエルター級日本ランク1位になり、「グレて、けんかに明け暮れていたことを知っていたのに、一度もとがめず、延々と練習につきあってくれた」と恩師に感謝している。
教え子には警察官への道を勧める。参考書を買い与えたり、模擬面接に付き合ったりして、県警と警視庁に1人ずつ採用された。谷本さんは「周囲の人を守ることができる人材を育てたい」と話している。