父自作の壁登り頂点へ スポーツクライミング 野口啓代選手30 ★集大成

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東京五輪での引退を表明している野口選手(昨年10月5日、茨城国体で)
東京五輪での引退を表明している野口選手(昨年10月5日、茨城国体で)
赤色のスカーフで髪の毛を束ねた野口選手(昨年8月の世界選手権で)
赤色のスカーフで髪の毛を束ねた野口選手(昨年8月の世界選手権で)

 昨年12月のある日、龍ヶ崎市の実家にはいつもの光景があった。設置された練習用の壁に向き合うと、登るルートを頭の中でイメージするかのようにじっと壁を見上げる。そうして、つかんだり足場にしたりするホールドに手をかけ登り始めていく。

 困難な課題では完登できるとは限らない。途中で落下してマットの上に転がったり、諦めてホールドから手を離して下に落ちたりすると、悔しげに壁をにらみ上げる。現役生活最後の舞台となる東京五輪に向け、一切妥協を許さない気迫が漂っていた。

 この人工壁は、父健司さん(55)が手作りで設置してくれたものだ。小学5年でスポーツクライミングに出会った後、当時営んでいた酪農の牛舎隣に作ってくれ、親子で練習に励んできた。あれから約20年がたつ今でも、貴重な鍛錬の場となっている。

 「中学生の頃からずっと実家で練習を積んできているので自宅の壁が気に入っている。一人で集中して練習できるし、私にとって一番いい環境」という。昨夏、五輪代表に内定した後は、拠点を龍ヶ崎市に戻し、週に2、3度は実家の壁を登っている。自分の原点とも言える場所は集大成に向けて、いよいよその重要性が高まっているようだ。

 父は細かな要望に応えてきた。少しずつ増改築して、国内屈指の存在へ駆け上がっていく競技レベルに合わせてきただけではない。世界で戦うようになっても、大会の合間に再び実家へ戻る。克服すべきテーマに応じてホールドの位置や形状の変更を頼めば、父は壁をその時々の“娘仕様”にしてくれる。実家の壁は言わば、親子の絆の証し。ここでの研鑽けんさんが日本のトップクライマーを下支えしてきた。

 父や母信子さん(57)と競技の話をすることはほとんどない。報道陣に対して語る感謝の言葉も、両親は間接的に耳にする。「はたから聞くくらいがちょうどいいでしょう」と笑う健司さん。ホールドの調整にとどまらず、五輪で行われる種目の一つ、スピード用の壁まで作り上げた。

 3種目の総合ポイントで競う五輪。スピードは国内での歴史が浅い種目で、得意のボルダリングや、リードに比べて伸びしろが大きい。「環境を整えて強くなってほしいからね」。父はさらりと語るのみ。そこには、まだ世間で知られていなかった頃からこの競技を始め、道を切り開いてきた娘を最後までサポートしたいとの親心がにじむ。

 代表内定直後、「親を五輪に連れて行きたいという思いで頑張ってきた」と、安堵あんどの表情で吐露した。両親への感謝を胸に秘め、自国開催の五輪出場を恩返しと捉えてきたのだろう。「一日一日を大切にして、思い切りクライミングをしたい」。始まった引退へのカウントダウン。決勝は8月7日だ。すべてを懸け、金メダルを取りにいく。(浜口真実、終わり)

 大事な場面は「赤」

 大事な場面で欠かせないのが勝負カラーの「赤色」だ。ポニーテールに結ぶ赤のスカーフや赤のネイルが代表的。「昔から見ると気分が上がるから好き」と話す。五輪代表がかかった8月の世界選手権複合女子決勝当日は、母信子さんに頼んで龍ヶ崎市の実家にあった赤のスカーフを会場の東京都八王子市まで持ってきてもらい、試合前に結んでもらった。見事に代表内定を決め、信子さんを「『がんばれっ』と思いながら結びました。こんなこと初めて」と感激させた。

 昨年8月、東京都八王子市で行われた世界選手権の複合女子(3種目)で、スピード7位、ボルダリング1位、リード3位となり、日本勢トップとなる銀メダルを獲得。日本山岳・スポーツクライミング協会が定めた7位以内で日本人最上位という条件をクリアし、五輪代表に内定した。

 のぐち・あきよ 龍ヶ崎市出身。東洋大牛久高卒。2002年の全日本ユース選手権制覇。08年ボルダリングのワールドカップ(W杯)で日本人女子として初優勝するなど、W杯は通算21勝。年間総合優勝も09、10、14、15年と4度達成している。

無断転載禁止
997460 0 懸ける ~KAKERU~ 2020/01/13 05:00:00 2020/01/13 05:00:00 2020/01/13 05:00:00 国体でも圧巻の登りで会場を魅了した野口選手(10月5日午前9時24分、鉾田市で)=浜口真実撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200112-OYTAI50016-T.jpg?type=thumbnail

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