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    2歩目 設計 住民と一緒に

    「1500万円では無理だ。もっと安い住宅でなければ手が届かない」

    • 会合で再建する自宅について話す遠野さん(中央)(5月31日、陸前高田市気仙町の要谷集落で)
      会合で再建する自宅について話す遠野さん(中央)(5月31日、陸前高田市気仙町の要谷集落で)

     昨年11月9日夜、陸前高田市気仙町の要谷公民館で、男性が声を上げた。北海道立北方建築総合研究所の鈴木大隆環境科学部長(54)が耳を傾けていた。

     畳敷きの部屋には、震災の津波に家を奪われた要谷集落の住民ら約15人が集まっていた。要谷青年部会長の武蔵和敏さん(45)の呼びかけに応じた「住まいの再建を考える会」の会員だ。

     会の初会合で、部屋にはスクリーンが設置された。鈴木さんが描き、自宅再建に悩んでいた武蔵さんの背中を押した「気仙木造復興モデル住宅」のスケッチが映し出されていた。「分かりました。そうした要望に応えるのが私の仕事です」。鈴木さんは答えた。

     自宅再建を目指す被災者にとって、最大の悩みは費用だ。会員は次回までに、捻出できる金額を決めることになった。「わが家を取り戻すための第一歩がやっと踏み出せた」。武蔵さんは胸をなで下ろしていた。

     12月に開かれた2回目の会合では、各家庭で検討した結果が発表された。13人が回答し、手の届きそうな価格として、12人が「1200万円程度まで」、1人が「1500万円以上」とした。津波で失った住宅のローンや震災前からの借金などを抱えながら、ひねり出した金額だった。

     鈴木さんは、「時間をかけて建て増ししていけば良い」と答えた。震災前の集落には昔ながらの家が多く、住民らは建て増しや改修で生活を続けてきたからだ。

     意見をとりまとめた鈴木さんは、設計担当の住田住宅産業(住田町)の佐々木一彦社長(67)とデザインの具体化と、価格の絞り込みに取り組んだ。会社に30回以上足を運び、時には泊まり込み、2階建て2棟、平屋1棟の設計案が固まった。

     「方向性が明確で話がしやすい」と佐々木社長。鈴木さんも「今から住民と住宅会社が議論し、『わが家』を一緒に造り上げて行くことが大事だ」と話す。

     この設計案を受けて、今年1月、要谷集落にあった自宅が津波で全壊し、仮設住宅に住む会社員遠野司さん(53)が発注した。「内陸のハウスメーカーの家より質が良く、長持ちしそうだ」と思った。

     震災前、遠野さんは妻と妻の両親、子ども3人の7人暮らしだった。2階建て1棟と平屋1棟を建設し、大船渡市にいる父(84)を呼びよせて8人で暮らす予定だ。一時は復興住宅に入居することも考えたが、「わが家があれば親の面倒も見やすい。友達も泊められる。何より夢があるよ」と笑う。

     遠野さん宅は現在、宅地の造成中だが、8月には住田町に同社のモデル住宅が完成する予定。実物を見れば、ほかの会員の決意もさらに固まるはず、と武蔵さんは期待する。

    「地域のつながりは、失ってはいけない財産だ。その基盤となるわが家を取り戻し、地域再生の足がかりにしたい」

    (安田信介)

     陸前高田市気仙町長部地区で、住宅再建に向けて動き出した被災者たちを見つめ、その取り組みを伝えていく。

    2013年06月01日 23時48分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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