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(1)建設費8000億見合うか

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国際リニアコライダーの完成イメージ(c)Rey. Hori
国際リニアコライダーの完成イメージ(c)Rey. Hori

 文部科学省は9月30日に発表した「基本構想ロードマップ」に国際リニアコライダー(ILC)計画を盛り込まず、県などが目指す北上山地地下への誘致は、早期の実現が難しくなった。地元が長年にわたって誘致活動を続けているにもかかわらず、状況がなかなか進展しないのはなぜか。ILC計画を多面的、客観的に検証し、今後の道筋を考える。

是非巡る議論少なく

 基本構想ロードマップには、着手の優先度が高い大型研究が盛り込まれる。ILC計画が記載されなかったのは、高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市)が3月、ロードマップ記載への申請を取り下げたためだ。

 KEKは取り下げの理由として、欧米の研究機関などと国際協力する計画の内容が変更になったためだと説明し、ILC計画自体は着実に進展しているとする。

 実際に、各国の物理学者で組織する国際将来加速器委員会は8月、「国際推進チーム」を設立した。KEKを拠点としながら国内外で交渉を進め、2025年にも着工し、35年にもILCの運用を始めるとの青写真を描く。

 ただ、県内ではILC計画の是非についての議論はあまり交わされていない。有識者の間では、実現性や効果などについて懐疑的な見方をする人もいる。

 「巨額投資に見合うだけの成果が出るのだろうか」

家泰弘・東大名誉教授
家泰弘・東大名誉教授
国際リニアコライダーの詳細な仕様が記された「TDR」。5冊で計1155ページに上る
国際リニアコライダーの詳細な仕様が記された「TDR」。5冊で計1155ページに上る

 家泰弘・東大名誉教授(68)=写真=は、電話帳のように分厚い「TDR」と呼ばれる資料をめくりながら、率直に思った。

 TDRは、ILC計画を進めるアジアや欧米の国際共同研究チームが作成した技術設計報告書だ。計1155ページに英文や数式、図がびっしりと並ぶ。家氏は13年6月から2か月かけて読み込んだ。

 ILCは素粒子物理学や高エネルギー物理学の分野に属し、物質の根源に迫る研究領域だ。半導体や超電導が専門の家氏を含め、多くの物理学者にとっては「高根の花」のような存在でもある。

 だが、TDRを読んだ結果、その科学的意義はある程度理解できたものの、突っ込みどころも散見された。

 「宇宙の謎に迫る究極の研究」という壮大な触れ込みのわりには、主な研究目的が「ヒッグス粒子の精密測定」であるのが気がかりだった。画期的な新発見はあるのだろうか。仮に何十年も性能を発揮し続けて、多くのデータを蓄積したとしても、家氏は「あくまで、登山道の入り口が分かるレベルでは」と感じた。

 8000億円とされる建設費も、どこか非現実的だった。ノーベル物理学賞の受賞につながった観測装置の後継となる「ハイパーカミオカンデ計画」は722億円、世界最高水準のスーパーコンピューター「富岳」は1100億円。ILCの研究費用は各国間で分担される見込みだが、日本がホスト国になれば4000億円程度を負担する必要がある。しかし、文科省の大型研究計画の関連予算は年間300億~400億円程度しかない。

トリチウム扱い不安

 実験で出るトリチウムの扱いにも不安があった。トリチウムは弱い放射線を出し、東京電力福島第一原発の処理水にも含まれる。ILCでは、実験で衝突しなかった電子や陽電子の捨て場となる「ビームダンプ」と呼ばれる装置にトリチウム水が発生する。計画に携わる有識者らは異口同音に「安全だ」と強調するが、万が一の事態が起きないという保証はない。

 分厚いTDRの中で、ビームダンプに関する記述は2ページのみ。家氏は日本学術会議(東京)の副会長だった13年から足かけ5年余りにわたり、会議内に設置されたILCに関する検討委員会の委員長を務め、ビームダンプについて研究者にしつこく聞いたが、納得できる答えは得られなかった。委員からも「環境への配慮がもっと必要だ」との声が出た。

 「誘致を支持するには至らない」。検討委は18年末に見解をまとめ、文科省も翌19年3月に誘致の判断を先送りした。

 家氏は、海外との連携を急ぐ動きに首をかしげる。「推進派は学術界の合意を得ずに『バイパス』しようとしているのだろうか。私たちの問いに真正面から答えないのは、科学者として望ましい姿とはいえない」

国際リニアコライダー(ILC)

 地下約100メートルのトンネルに全長20キロの直線型加速器を設置する国際プロジェクト。光速近くまで加速した電子と陽電子を衝突させて宇宙初期の高エネルギー状態を作り出し、質量の源とされ「神の粒子」と呼ばれるヒッグス粒子の様子を調べる。

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1537010 0 ILCの実像 2020/10/03 05:00:00 2020/10/10 11:43:40 2020/10/10 11:43:40 国際リニアコライダーの完成イメージ(c)Rey. Hori https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201010-OYTAI50017-T.jpg?type=thumbnail

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