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(5)県民の納得 実現へ鍵

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県主催のILC出前授業。講師が「ILCはどこに作られますか」と質問すると、生徒は口をそろえて「岩手県」と答えた(9月5日、盛岡市で)
県主催のILC出前授業。講師が「ILCはどこに作られますか」と質問すると、生徒は口をそろえて「岩手県」と答えた(9月5日、盛岡市で)

 誘致への気勢を上げるはずの講演で、異例の「謝罪」だった。9月24日、県ILC推進協議会(盛岡市)が主催したウェブ講演会。国際リニアコライダー(ILC)計画に携わる森俊則・東大教授(60)が「地元の方々に取り下げた事実を公表していなかったのは間違いだった。研究者を代表しておわびする」と述べた。

 高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)は3月、ILC計画を「基本構想ロードマップ」に盛り込むための申請を取り下げたが、事実を公表したのは約半年後の9月8日だった。取り下げは国際協力の計画内容が変更になったためだが、県内関係者から「なぜ教えてくれなかったのか」といった声が上がった。森氏の発言は、こうした声を受けたものだった。

 次の「基本構想ロードマップ」は3年後の見込み。誘致活動は、またもや「仕切り直し」となった。

 「研究の意義が理解されていない。国際的な連携は進んでいるのに」。鈴木厚人・県立大学長(74)が言う。鈴木氏は8月、関係市町などからなる新組織「東北ILC事業推進センター」(盛岡市)の代表に就き、「長すぎた春だった。東北からねじを巻きたい」と語った。ILC導入に積極的な有識者らは、建設予算について、従来の科学研究予算とは別枠で確保する方法もあると指摘する。

 誘致活動では、県民への浸透も大事になる。最近はILCにちなんだご当地キャラクターが登場し、「ソフト路線」が目立つ。

奥州市のマスコットキャラクター「おうしゅうヒッグスくん」=奥州市ホームページより
奥州市のマスコットキャラクター「おうしゅうヒッグスくん」=奥州市ホームページより

 奥州市は2017年、ILCで測定するヒッグス粒子をモチーフにした着ぐるみ「おうしゅうヒッグスくん」を制作。小学校やイベントでアピールしている。

素粒子を擬人化したキャラクター「Particle Boys~素粒子男子~」
素粒子を擬人化したキャラクター「Particle Boys~素粒子男子~」

 一関市は、東京都内の制作会社が素粒子を擬人化して創作した「Particle Boys(パーティクルボーイズ)~素粒子男子~」を起用。等身大パネルをJR一ノ関駅の新幹線改札内に置き、「若年層に受けている」(市職員)という。

 ただ、こうしたPR方法に違和感を感じる向きもある。海外での加速器施設の研究プロジェクトを主導する理化学研究所の斎藤武彦主任研究員(49)は「科学者になろうと思う子は、着ぐるみやキャラクターを見てではなく、科学の本質的な魅力を感じて志すはずだ」と指摘する。

 ILC誘致の議論が盛んな県内だが、現状では県民に浸透しているとは言い難い。県が6月に発表した県民意識調査の結果によると、「ILCや新たな産業振興への取り組み」は、県の施策57項目の中で、重要度で下から2番目、ニーズ度でも下から5番目だった。

 こうした中、県は、子供たちを対象にILCの教育を展開するようになった。

 県盛岡広域振興局は19年度から「ILC解説普及員」を講師として学校に派遣している。解説普及員の岩手大職員・藤崎聡美さん(48)は、出前授業でキャラクターの露出を控えめにする一方、社会人になった時にILCを通じて地元にどんな貢献ができるのかを考えてもらうようにしている。「実験が始まると、通訳や飲食、観光など幅広い仕事が生まれる。子供たちが古里の町に戻るきっかけになるはず」と語る。

 ILCに匹敵する巨大国際プロジェクトである国際熱核融合実験炉(ITER=イーター)も、「夢のまた夢」と揶揄やゆされたが、スタートにこぎ着けた。温室効果ガスや高レベル放射性廃棄物を出さない「夢の発電手段」としての大きな期待が、その背景にある。

 「サイエンス・フォー・ピース(平和のための科学)」――。ヒッグス粒子を発見した欧州合同原子核研究機関(CERN=セルン)が掲げる理念だ。ILC計画も、平和利用を目的に各国間の協力で進んでいくだろう。本体や関連施設が県内にできて国際交流の拠点となる日が来るかもしれないし、実を結ばないかもしれない。

 ただ、誘致活動が今後どう展開されようとも、実現に向けた「鍵」は不変だろう。巨額投資とそれに見合う成果を、県民と国民、世論が理解し、納得するかどうか、だ。

(おわり。この連載は、中根圭一が担当しました)

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1537040 0 ILCの実像 2020/10/07 05:00:00 2020/10/10 11:52:51 2020/10/10 11:52:51 県主催のILC出前授業。講師が「ILCはどこに作られますか」と質問すると、生徒は口をそろえて「岩手県です」と答えた(9月5日、盛岡市の盛岡中央高付属中で) https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201010-OYTAI50029-T.jpg?type=thumbnail

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