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5資産追加道のり遠く 調査難航問われる振興策

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小区画で形が不ぞろいな水田が広がる骨寺村荘園遺跡。家々は北風を遮るイグネに囲まれている(一関市で)
小区画で形が不ぞろいな水田が広がる骨寺村荘園遺跡。家々は北風を遮るイグネに囲まれている(一関市で)

 小区画で形が不ぞろいの水田に曲がりくねった水路、防風林「イグネ」に守られた家々。経典を管理する費用をまかなうため、中尊寺に与えられた所領だった一関市厳美町の骨寺村荘園遺跡には、国の重要文化財「陸奥国骨寺村絵図」に描かれた中世の田園風景が今も広がっている。

 2011年に国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)が、中尊寺など「平泉の文化遺産」を世界遺産に登録してから10年。同遺跡は当初、世界遺産の構成資産となるはずだった。しかし、08年、ユネスコの国際記念物遺跡会議(イコモス)が平泉の文化遺産に事実上の「落選」となる登録延期を勧告したのを受け、構成遺産から除外された。文化庁はその後、同遺跡の追加登録を目指したが、10年を経ても成果は出ていない。

 同遺跡では、水田を所有する農家でつくる「本寺地区地域づくり推進協議会」が世界遺産を目指して、水田の維持や水路の保全を続けてきた。小区画の水田のコメの生産コストは通常よりかかる上、土で固めた水路は泥や枯れ草がたまりやすく、保全の苦労は並大抵でない。同協議会の五十嵐正一会長(71)は「保全活動を長年続けてきたのは、世界遺産という目標があったから。追加登録が実現しなければ、我々の活動は報われない」と語る。

 県や一関、奥州、平泉の地元3市町は、同遺跡など除外された4資産に、奥州藤原氏の政庁跡とされる柳之御所遺跡を加えた計5資産の追加登録を目指し、発掘調査を進めてきた。08年のイコモスの勧告で「仏教思想との関連が薄い」と指摘されたのに対し、その強い証拠を見つけるためだ。

 しかし、「調査を進めてきた結果、資産そのものの価値は向上したが、追加登録に必要な証拠は得られなかった」と、調査に携わる関係者は打ち明ける。13年には世界遺産の無量光院跡と柳之御所遺跡をつなぐ橋の跡が見つかり、関連を示す証拠と注目されたが、5資産まとめて世界遺産に結び付けるような成果は表れなかった。

 県は、国内外の有識者の意見も踏まえ、柳之御所遺跡のみを追加登録する案を示したが、「5資産の追加登録が当初の目的だったはず」と主張する地元3市町の反発などもあり、18年の会議で見送った。それ以降も調査を続けているが、進展はない。

 県の佐藤嘉広世界遺産課長は「現状は厳しいが、長期的に取り組めば、5資産に関して成果が出ないわけではない」と話す。現状、県と2市1町は追加登録を目指すことで合意しているが、登録が一向に進まない状況に地元からは「いつまでも追加登録一辺倒でいいのか」との声も出てきている。

 今後について、稲葉信子・筑波大名誉教授(世界遺産学)は「学術的な裏付けが必要な調査には長い時間と手間がかかり、5資産全ての追加登録の道のりは長い」と指摘。その上で「世界遺産に登録されなくても5資産の価値は十分にある。地域振興への活用は地元の工夫次第で、文化庁が認定する日本遺産として登録するのも一つの手だろう」と話す。

 世界遺産を目指し、各遺跡周辺の住民らは長年、発掘や保全に協力してきた。追加登録の行方が厳しい中、県や地元には遺産を活用した新たな振興策も問われている。

 平泉の文化遺産が世界遺産に登録されてから今月29日で10年。観光や景観の保全など世界遺産が抱える課題を追った。

平泉の文化遺産 正式名称は「平泉―仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」。平泉町にある中尊寺、 毛越寺もうつうじ 、観自在王院跡、無量光院跡、金鶏山の5資産で構成され、11年6月、世界遺産に登録された。11~12世紀に東北地方を治めた奥州藤原氏によって整備され、争いのない浄土思想の極楽浄土を具現化したとされる。

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2157970 0 登録10年 世界遺産の課題 2021/06/24 05:00:00 2021/06/24 05:00:00 不整形な水田が広がる骨寺村荘園遺跡の水田。背景にある家々は北風を遮るイグネに囲まれている=小泉公平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/06/20210626-OYTAI50002-T.jpg?type=thumbnail

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