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    縦横無尽 文化伝える

    • 舞を披露する伶以野さん。「舞台の上では誰にでもなれる」と能楽師の魅力を語る(高松市で)
      舞を披露する伶以野さん。「舞台の上では誰にでもなれる」と能楽師の魅力を語る(高松市で)

     ◇能楽師・伶以野 陽子さん 45(高松市出身)

     「ヨー、ポン」。囃子はやし方の音色やかけ声がこだまするなか、唐団扇うちわを片手に面を付けて縦横無尽に舞う。すらりとした長身に金色の装束をまとい、厳かで美しい所作を披露した。

     昨年の大みそか、高松市のレクザムホールで開かれた能の舞台。演目は、装束付舞囃子「天鼓てんこ」。中国・後漢の時代、悲運に見舞われた鼓の天才少年の物語で、シテ(主役)として少年の霊を演じた。「できるだけ演じず、見る側に人間の内面を感じ取ってもらうのが能」と語る。

     両親は教育者で、古典芸能とは無縁の家庭で育った。県立高松高を卒業し、東京学芸大教育学部に進学。学外で、子供の頃から漠然と憧れていた演劇を始めた。

     「役者として食べられるようになりたい」との一心から、卒業後も東京の劇団を渡り歩きながら表現力に磨きをかけた。

     28歳の春、友人に誘われて靖国神社の薪能を訪れた。能は初めてだったが、目の前で舞われる「松風」に、電流が流れたように動けなくなったという。一人の男性に思いをはせる姉妹の霊を演じる能楽師。話の筋もわからなかったが、無言で見つめ合う姉妹の姿は、確かに生きた心を表現していた。

     翌日、電話帳を引っ張り出し、稽古できる場を探した。偶然見つけたのが、靖国で見たシテ方観世流の梅若六郎さん(現・人間国宝梅若玄祥)が学院長を務める都内の「梅若能楽学院会館」だった。

     能の世界に足を踏み入れた3年後、舞台を見た梅若さんに「玄人になりなさい」と声をかけられた。「認められた。本格的にこの世界に入れる」。跳び上がるほどうれしかったが、慣れない礼儀作法や上下関係の難しさに直面した。朝方から梅若さんの元に出向き、夜遅くに帰宅。米国人男性と結婚していたため、同国に行ったり来たりの多忙な生活も重なった。

     それでも「能は演劇の土台。習得するまで終われない」と諦めず、2010年に師範になった。

     今は弟子も持ち、月に数回舞台に上がる。16年には、高松市で開かれた先進7か国(G7)情報通信相会合のレセプションで舞を披露するなど、地元で能を伝える機会も増えてきた。

     「能は日本が誇る素晴らしい文化。外国人や子供にも魅力を紹介していきたい」。舞台では決して見せない、屈託のない笑顔を見せた。(漣博司)

     ◇メモ

     能楽協会(東京)などによると、全国で活躍する能楽師は現在、約1200人。そのうち、女性は約2割とみられる。シテ方には観世、金春、宝生、金剛、喜多の5流派があり、伶以野さんが所属する観世流が最大流派。「素人」は習い事として稽古料や舞台の出演料を支払うが、能楽協会所属の能楽師ら「玄人」は、観客からの代金で公演を行う。2001年、能楽は国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。近年は海外公演も盛んに行われている。

    2017年01月25日 05時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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