昭和 忘れられる前に
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生き抜いた時代をつづった本出版 清水 末子さん 80
バスガイドの経験など自身の人生を振り返った本「発車オーライ 一期一会 七十五年の記憶」(税別2000円)を出版した。「昭和の語り部」として、戦争体験や、復興していった日本の姿を子どもたちに伝えたいという思いが根底にある。「平成が終わり、令和となり、忘れ去られていく昭和を本にとどめておきたかった。昭和を知らない若い人たちに読んでほしい」と期待する。

清水さんは1941年、福岡県で生まれた直後に、家族16人で中国東北部(旧満州)に渡ったが、今も脳裏には、機銃掃射の弾丸が飛び交い、近くの人が撃たれて亡くなった姿が目に焼き付いているという。父らがシベリアに抑留される中、46年に母の実家がある坂出市に引き揚げてきたが、9歳で母を亡くした。
地元の坂出高校を卒業後、「自分の好きな古典や地理の勉強にもなる」という恩師の勧めで、バス会社に就職。バスガイドとなり、北海道から鹿児島まで、全国各地を巡った。5年間必死に働いた後、独立し、フリーのガイドとして活躍。経営の神様と呼ばれた松下幸之助さんや、精神科医や随筆家として活躍した斎藤茂太さんらを案内したこともあった。「様々な人との出会いが人生を豊かにしてくれた」と振り返る。
88年の瀬戸大橋の開通を機にガイドを引退したが、その2年前には、経営難に直面していた土産物卸会社を譲り受け、夫婦で再建に着手。観光地を空撮した写真を使った絵はがきなどを、土産物店や高速道路のサービスエリアに売り込み、軌道に乗せた。
全国の桜を撮影する趣味にも時間を費やせるようになったが、次第に時代の流れもあり、家業に陰りが見え始めた。後継者もいないことから、2019年に廃業。長年携わった観光業から、一切の手を引いた。
この間、ガイドでの様々な出会いや、娘の子育てで感じた学校に対する理不尽な思いなどをノートに書き残してきた。自分の集大成として、著書として形にできないか。そう思い立ち、電話帳で「松原製本所」(高松市)を見つけて連絡。原稿を読んだ代表の松原英樹さんは「バスガイドとしてのおもてなしの心や、軸のしっかりとした真っすぐな心が、文章にあふれている」と感じたという。
昨年9月に出版された本は、これまでの人生をつづった255ページ。戦争については「(中略)全てを失い、誰の援助もなく、裸一貫で立ち上がり、多くの人が十五歳から働いて、父に代わって母を助けて、今日の繁栄を生み出したことも、忘れてはいけない戦争の記憶の中に加えたいものです」などと書いている。
新型コロナウイルスの感染拡大で、地方の企業が影響を受けたり、若者が就職活動で苦労したりしている。「山あり谷ありの人生だったけど、人間は万事、
問い合わせは松原製本所(087・866・9655)。(田岡寛久)